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第168話(12月②)(1) ※微R18

12月下旬 ドイツ(紅葉の実家) 「……あー… ここ…俺の実家(旅館の厨房)じゃねーよな?(苦笑)」 一瞬凪がそんな一人言を呟いてしまうくらい、次々に大量の料理を作り続けている。 凪が腕によりをかけて振る舞う日本料理は紅葉の祖父や親戚、弟妹たちの口コミから近所広まり、友達やその家族、友達の友達…日に日に食べにくる人数が増えているのだ。 凪は完全にシェフだと思われているだろう。 みんな美味しいと喜んでくれるし、食材や材料費をくれるし皿や鍋も貸してくれるし、それらを返しに行くと近所の奥様はドイツ料理のレシピも教えてくれる。 しかし凪は連日キッチンに立ちっぱなしだ。 夜は紅葉と紅葉の双子の兄である珊瑚、その旦那兼音楽の先輩でもある翔(たまに紅葉たちのすぐ下の弟のアビーも)とグダグダになるまで飲んで寝落ちがお決まりのパターン。 充実はしているが、今のところ全く新婚旅行的な要素はない…。 今朝も起きがけに触れ合おうとしたが、紅葉が家族に声を聞かれたり、バレたら恥ずかしいからストップがかかった。 これについては出発前に紅葉から「お願い」と、念押しされていたので仕方ないというか、凪も納得している。 もちろん抱きたいが、それには紅葉が安心出来る環境でないと多分集中出来ないだろうし、 普段凪といる時はとても甘えたがりな紅葉だが、弟たちの前では"良いお兄ちゃん"でいたいのだ。 まぁ、隣の部屋(翔と珊瑚)は物音など気にすることもなく昨夜もお楽しみだったが…一度寝たら起きない紅葉は知らないだろう…。 「ギブっ!ちょっ!珊瑚っ! …勘弁して! …そんな立て続けに無理だって!」と先輩の叫び声を聞かされた凪はいたたまれなくなり、寝不足である…。 今思えば日本を出国する直前、濃厚な一夜を過ごしてきたのが救いだった…。 「凪くんっ! 肉じゃがまだあるー? あとじゃがいもの天ぷらと…サラダと…あ、おはぎも!」 紅葉は無邪気な笑顔で朝から晩までずっと楽しそうにしているからまぁこんな日々も良いかと凪は思っていた。 「…あー、あるよ。 ほら…。おはぎこれで全部だから。」 ドイツ人はじゃがいもや豆料理が好きだ。 寒いので豚汁を作って隣の親族宅にも差し入れたら「君は天才だっ!これは毎日食べたい!」と称賛され、レシピを教えると冗談ではなく毎日作っているらしい。 おはぎは見た目に驚かれたが、小豆という豆だというとスイーツとして認識されたようだ。 紅葉の実家でも豚汁とおにぎり(具はドイツソーセージ)の朝食が定着してきた。 こどもたちでも簡単におにぎりが作れるとお土産のおにぎりメーカーが早速大活躍中だ。 日本料理の定番、天ぷらもウケがよく、大鍋いっぱいに作った肉じゃがはもう底が見える程にしか残っていない。因みに今日作った分だ。 「ありがとう!分かったっ! あ、これも持っていくねー! 戻ったらお皿洗うね!」 「…あぁ。頼む。 はぁ…。紅葉と店やったらこんな感じか…?(笑)」 もしかしたらそんな未来もあるのだろうか…と考えながら凪は鍋に向かった。 「ねぇ、肉!まだー?」 「なーぎー! チーズのカリカリは?」 「はいはいっ! ってか、珊瑚!お前は手伝えよ!(苦笑)」 「あー?今手塞がってるー。」 「ねぇ珊瑚、この子の着替えどこー?」 珊瑚は近所の幼児(双子)を預かっていてその世話で忙しいらしい。 なんでそんなことをと疑問に思う凪だったが、翔に聞いたところどうやら弟妹たちは手がかからなくなってきてなんだか物足りないんだとか…。 亡くなった祖母に似て子供好き、珊瑚も紅葉も世話好きな兄弟だ。 「ネイビーの鞄! ってか俺はやっと撮影終わって帰ってきてナニしてお疲れなんだよ…。 最近あのオッサンしつけーからさぁ…。 とりあえず早く肉くれっ! おい、翔ー? かわいーコーハイが呼んでんぞ?」 子供の前でなんつー会話を…と凪がキッチンから視線を送るがみんな食べることに夢中なようだ。 フォトグラファーの珊瑚は最近念願だった星空を撮るようになった。星といえば専門家の誠一とも頻繁にやり取りしているらしい。 撮影の仕事で1ヶ月程会えていなかった翔と珊瑚は互いに口調は荒いが、隙があれば濃厚なキスを交わしている。 どっちが新婚だが分からない程だ…。 「んー?はいはい、今行く。 …でも珊瑚もめっちゃノッてたじゃん?(笑) はい、さっちゃん、唐揚げ小さく切ったから食べてね。」 「カケっ!幸もう自分で出来るのよ?」 「そうだった! ごめんごめん! もうお姉さんだもんね。」 「そうよっ!」 腰まで伸ばしていた美しい金髪を肩の長さまで短くした紅葉の末の妹サチはふんっと腰に手を当ててにそう告げた。 再会した日に「ヘアドネーションしたのよ」と笑顔で告げる彼女は誇らしげで大人びて見えた。 「ご馳走さまー! よしっ!サッカーしようぜーっ!」 クラブよジュニアユースに所属する程サッカーに夢中のアッシュが声をあげるとわーっとこどもたちが駆け出して行った。 「はは。 元気、元気!」 紅葉の祖父も楽しそうに大好物の柿ピーとビール手に笑っている。

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