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第179話(12月③)(5) ※微R18

翌朝… 凪は悶々としながら厨房に入った。 母には休んでいいと言われてたが、そんな状況ではないし、何より紅葉を抱きたい欲が治まりきらないというかある意味不完全燃焼でほとんど眠れなかったのだ。 紅葉の方も昨夜は声を抑えることに神経を使い過ぎたのか、あの後えらく疲れていて、なんどか申し訳なかった。何より身体の奥が変だと訴えていたので多分凪と同じなんだと思う。 何処かで2人で過ごす時間を作って、場所も確保しないと…などと考えながらお節の準備をしていたら黒豆に皺が寄ってしまい、早速新しくきた板長に目をつけられたらしい。 「ハッ…! 音楽やら洋食やら浮かれてっからだろーが…! お前…男を嫁にもらったなんてよく言えるな…! 恥晒しもいーとこだ!」 殴らなかっただけえらいと思う…と凪は自我自賛しながら、黒豆の入った鍋を持って母屋にやってきた。 まだ眠っている紅葉にメモに「好きなだけ食ってよし!」と書いて鍋に貼っておく。 厨房に戻れば与えられるのは野菜の皮剥きや下拵え、さらには一番下っ端のやるような洗い物の仕事で凪を知る他のスタッフもハラハラしている様子だった。 それを制して自分の仕事をするようにと伝える凪は大人だった。 作業しながら観察していると板長は他のスタッフへの当たりもキツく、見て聞いているだけでもムカつく。 しかし、もしかしたら自分も…もし紅葉に出会わなければああいう人間になっていたのかもしれない…と思えるくらいの心のゆとりがあった。 「あー…!くそっ! タバコ、吸いてぇ……」 朝食の片付けと夜の仕込みまでを終え、何年振りかに沸くイライラした感情で母屋に戻る凪。 紅葉に八つ当たりしないうちにとりあえず1回寝ようと思った。 「あ!お帰りなさい! お疲れ様だねー! お腹空いてる? さっきお義母さんと商店街に年末のご挨拶?って言うのに行ってね! いろいろ買ったり、もらったりしてきたんだよー!見て!また和菓子屋さんのおばあちゃんがお饅頭くれたー!」 屈託のない笑顔の紅葉を見て、思わず抱き締める凪。 「俺の癒し……」 というか、自分の母親は年末の挨拶回りに紅葉を同行させたのか…と、その堂々っぷりに驚いていた。(紅葉がその意味=嫁ってを分かってるかは別にして) 後ろで平九郎と梅も構って!と寄ってきていた。 「はいはい、お前たちもね。 ……? あ…? 紅葉……黒豆は?」 シンクに空になった鍋だけあって凪は訊ねた。 「ん? 食べたよ?」 「…まさか……全部?」 「…えっ?! ダメだった…? 好きなだけ食べていいってあったから…! さっきユキくんと通話しながら摘まんで…! あ、ユキくんは海ぶどう食べててね。 それで…お豆…美味しくて…気付いたらなかったんだけど…(苦笑)」 豆の仕入先が変わったので元々試作用だったが、かなりの量があったはずだ。 まさか全部一人で、しかもこの短時間に食べきると思わなくて驚く凪。 そして次に感じた感情は可笑しさだった。 「くっ、マジか…っ! お前…!あの量…一人で全部食ったの?(笑)」 「えぇ…?うん…(苦笑) だってホントに美味しくて止まらなくなってね…! あれって…お正月のお豆だよね?材料まだある? また作ってくれる?」 「あはは…っ!」 「? 凪くん…、そんな笑うことー?…ふふ。」 紅葉も凪につられて笑う。 失敗作だと散々詰られた豆だったのに、そんなこと知りもしない紅葉がキレイに全部食べてくれた。 不思議なことに凪が先程まで感じていたどす黒い負の感情も全部消えてなくなってしまった。 しかも…紅葉は美味しかったと、また食べたいと笑顔を見せてくれた。 あぁ…大切な家族の集まるお正月にこういう笑顔が見られる料理を作ろう、凪は改めてそう決心したのだった。 END

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