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第180話(12月④)(1)

年の瀬の森林公園 凍てつく寒さのせいかお昼でも人はほとんどいない。 芝生広場に紅葉の奏でるヴァイオリンの音色が響く…。 すぐ近くのベンチにはもちろん凪と平九郎、梅の姿。ボール遊びに疲れた愛犬たちはお昼寝中だ。 区切りの良いところまで弾き終わったようで凪が声をかける。 「…紅葉ー。 少し休憩したら?」 「うん! 寒くて指先がかじかんでうまく動かないー!(苦笑)」 紅葉はヴァイオリンを丁寧にケースへしまうと、凪の隣へ座った。 「どれ…? …冷た…っ!(苦笑)」 「凪くんはあったかいねー! あ、何か温かい飲み物でも買って来ようか?」 「…いーからここにいて。」 そう言って手を繋いで紅葉の指を温めてくれる凪は優しい。 馬の合わない板長との仕事も淡々とこなしていて、ほぼ丸投げされたお節の調理は今日と明日徹夜で取り組む予定だが、凪は僅かな休憩時間に身体を休めることより紅葉と愛犬たちとのリフレッシュを望んだ。 こんな環境の中でも凪を慕ってくれる調理スタッフもいるし、お節を楽しみにしてくれているお客さんがいて、何より紅葉がいてくれる…。 何やらまた曲を創っている紅葉を傍で見ていられるのは凪の幸せの一つだ。 美しく繊細で輝いた紅葉の音楽はまるで魔法なのだ。全てが浄化されていく気さえする。 なんとかなると思えるのだ。 調理場の正社員でもない自分はあまり口を挟むべきではないだろうし、両親や義弟の立場もある。 凪的には板長が理不尽に紅葉に絡んだりしなければもう良いと思っていた。 「はぁー…!」 ぐーっと伸びをした凪は紅葉の膝の上に頭を乗せて横になった。 「ふふ…! 眠いの? もう…凪くん…! 風邪ひいちゃうよ?」 珍しく無防備に甘えてくる凪が可愛くて、紅葉は微笑みながら少し硬めの凪の髪に指を通す。 漆黒の瞳と視線が合うとそのまま引き寄せられるようにゆっくりと唇を合わせた。 カシャカシャ…! 「……。盗撮すんなよ、ゆーじ。」 「こんなとこで堂々とイチャついてるとか! 某週刊誌に撮られるよー?」 「ゆーじくん…っ?! 要くんも!」 紅葉は突然現れた友人たちに驚く。 平九郎と梅は遊んで!撫でて!と2人に尻尾を振っている。 一方、凪は貴重な癒しの時間を邪魔されて不機嫌そうだ。 「もう公にしてるんだから別にネタになんないだろ。 あ、お前たちのキスシーンでも撮る? 送っといてやるよ(笑)」 凪の返しにゆーじと恋人の要が赤くなった。 どうやらまだ清いお付き合いのようだ。 「っ!」 「あっ!いや…! 冗談言ってる場合じゃないんだって!」 「何かあったの? よくここにいるって分かったね。」 紅葉が言うと、ゆーじが肩を落としながら答えた。 「道中いろいろあって、凪の母ちゃん(早苗)にここにいるって聞いてきた。 ねぇ、どーしよ。 大阪のイベント出る予定だったバンドのギターがボーカルに手出して、クビになった! そのボーカルに片想いしてたもう一人のギターが知り合いなんだけど、そいつも飛んじゃって…!はは…っ、もう一瞬にしてバンドが空中分解みたいな?」 「あーあ。だからバンド内恋愛は禁止なんだよ。 へぇー…。え、なかなかヤベーじゃん(笑) LIVEいつ?」 「今日、これからだよっ!」 バンド内恋愛の後バンド内結婚した等本人はまるで他人事のように話し、紅葉は要と愛犬たちと遊び始めて話し聞いてないし、ゆーじはヤケになっていた。 「一応、うちの事務所に入るかどうかって話ししてたバンドだから、社長(光輝)に連絡したら家族サービス中(USJ)でブチキレだし…。 誠一がこっちいるって聞いてたから出てくんないかなーって連絡したら、冷酷笑顔で"絶対嫌"とかいうし、ってかお前んとこの母ちゃんに捕まってて無理って言うし、サスケは東京のカウントダウンイベ仕切るらしいし…。 社長にとりあえずお前がギター持って行けって言われて…来たんだけど…。」 「あー…誠一はバンド内恋愛からのバンド崩壊経験者だからなぁ…(苦笑) そっか…、新年の挨拶のやつ書かされてるんだな…。手書きが一番とか言ってたなぁ。 なんか高けぇ酒注文入ってたし、 メニュー表やら一式書かせるんだろ…(笑) まぁ、とりあえずゆーじが穴埋めで出るしかないじゃん? LIVE頑張って。」 「……冷たい…!同じバンドの仲間でしょ!(苦笑) 曲すら覚えてないのにヤバすぎだし、むしろ音源とセトリさっき届いたし! そしたらとりあえず紅葉くん頼れって。 社長が!」 「何ー? ねぇ、そろそろお腹空いたよー。」 「クシュっ!」 要はくしゃみをしているし、紅葉は無邪気に空腹を訴えるので、とりあえず4人と2匹は移動することにした。

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