173 / 226
第181話(12月④)(2)
公園近くのドッグカフェで軽食を摘まみつつ、平九郎と梅にもオシャレなおやつを買ってあげた。
犬用の年越しそばやお節なんて物まで売っていたが、高価で驚く紅葉。
お節っぽく凪が作ってくれると言ってくれたが、余計な仕事を増やしてしまったかもしれない…。
紅葉は少し気にしながらもオムライスを頬張りながら、曲を確認していく。
「…コードで言えばいい?
楽譜書く?」
「待って…!もう分かったの?」
雑音の多い曲から一聴きでギターラインを拾う紅葉に驚きながらゆーじは慌てた。
「うん。でも早くしないと忘れる…!」
ゆーじと紅葉がやり取りしている間、凪は要に聞いた。
「要…でいい?
ゆーじいない間どーする?」
「あ…適当に…。まだホテル決まってなくて…。
とりあえず満喫とかで待ってます。」
「…満喫好きなの?(苦笑)
暇でしょ?…うち来る?」
「でも……」
「俺、厨房の仕事があって、徹夜になりそうなんだよね。紅葉とこいつらの相手してくれる?」
凪の優しい提案に要は「ゆーじくんが良いって言ったら…」と、遠慮がちに頷いた。
その後、ゆーじとも相談して要は凪の実家に泊まることに。ランチ代はゆーじ持ちとなった。
ゆーじは凪にこっそり話す。
「宜しくね。
暗いのがダメだから、悪いんだけど廊下とか部屋も電気つけっぱなしにして欲しい。」
「了解。家族にも言っとくから。」
「あと、全然寝れてなくて…要くん。
紅葉くんにヴァイオリンお願い出来る…?」
「ん。分かった。」
「なんかあったら、LIVE後になるけど迎えに行くから。
あー、でもホテル1部屋しか取れないかもって言われてて…そうなったら俺が眠れなさそう!(苦笑)」
「…ずりぃ…、代わってくれ…」
凪は思わず俯き小声で本音を洩らした。
「えっ?」
「何でもない…。
とりあえず、なんかあれば連絡するし。
まぁ頑張れよ。」
「おー!凪もね!
…じゃあ、要くん…!
なんかいろいろ突然でごめんね。
明日、迎えに行くね。」
「うん…。
LIVE、頑張って。」
「ありがとっ!」
「…バイバイのチューしなかったね?」
2人を眺めていた紅葉はそんなことを呟いていた。ドイツ帰りでキスの頻度が麻痺しているのもある…。
「ん。まぁ、気にすんな。
俺らも帰ろ。」
「うん。」
寝不足だったのか、車中で眠ってしまった要。一応起きたが、まだ眠そうだ。
「あ。みなちゃん来た!」
やはり光輝はLIVEの対応へ向かったようで、予定より早くみなと娘の愛樹がタクシーでやってきた。
入れ替わるようにして誠一が荷物を持ってタクシーにやってくる。
「時間早いけどいい?」
「いーよ。紅葉と要も荷物持ってやって。
誠一お疲れ。お前も行くの?」
「とりあえず行こうかなって。
凪、早苗さんがくれたお酒、冷やしておいてくれる?」
「はいよ。」
「あんちゃん久しぶりー!
誠一くん、行ってらっしゃいー!」
誠一を見送り、離れに荷物を運ぶ。
「あー、じゃあ俺は厨房入るから…。
みな…、あと任せるわ。
必要なものあったら紅葉に言って。
母屋にいてもいーし。
ごゆっくり?」
「…まぁいいや。
あとでご挨拶だけしたいから宜しく。」
いろいろ悟った彼女はそう言ってくれた。
「凪くん、頑張ってね。
ご飯の時会える?」
「どーかな…(苦笑)」
「…お夜食持って行くね。」
紅葉はそう言うと激励のキスで凪を見送った。
その後は、みんなでドッグランで少し遊び、平九郎と梅は母屋で休憩。
紅葉は要に手伝ってもらってお土産とヴァイオリンを持ち、みなと光輝、愛樹が泊まる離れへと向かった。
「紅葉ー、今のうちに愛樹をお風呂に入れたいんだけど手伝ってくれる?」
「いいよー。
夜だと冷えるからねー。」
露天風呂付きの客室なので離れは少し高額ではあるが小さな子ども連れの家族に人気らしい。
「あ…、じゃあ僕外に出てる…っ!」
遠慮したのか要はそう告げるが、みなは愛樹と紅葉と3人で一緒に入ることを勧めた。
結局、彼女が荷物を片付けている間に3人で温泉を楽しみ、紅葉のヴァイオリンを聴きながらのおやつタイム。
「温泉…気持ち良かった…。」
旅館の浴衣に袖を通した要はそう言って微笑んだ。
「良かった。」
USJの黄色いキャラクターに夢中な愛樹は遊びながら眠ってしまった。
そしてつられるように要も瞳を閉じた。
2人に毛布をかけて、みなと紅葉は小声でお喋りを始めた。
「みんな元気だった?」
「うん!」
ともだちにシェアしよう!