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第182話(12月④)(3)

その後、平九郎たちの様子を見に母屋に戻った紅葉はうたた寝しているところを早苗に起こされた。 「ごめんねー、紅葉くん! 今日ちょっとバタバタしてて…! お夕飯なんだけど、凪もいつ戻れるかわからないからみなちゃんと要くんと一緒に離れで食べてくれる?早めに用意してもらうから…!」 「えっと…お客さん用のご飯? いいの?お義母さんたちは?」 「手が空いたら何かあるものつまむから大丈夫よ。あ!愛樹ちゃんのご飯は早めに出すように言ってあるからね。火使うお鍋もやめておこうかしら?」 「あ、うん。 そうだね。ちょっと危ないかも…。」 「分かったわ。じゃあそれも連絡して…」 本当に忙しいらしく、時間がないのか珍しく慌てる様子の早苗。 紅葉は少し迷ったが、話を切り出すことにした。 「お義母さん…!」 「ん? なぁに?」 「僕…お義母さんたちと同じご飯がいい…。 簡単なのしか出来ないけど…僕、何か作るよ。」 「紅葉くん…!」 友人が来ているからと言って何もせず豪華な食事を楽しむより、自分も家族として同じ物を食べたいのだという紅葉の気遣いに感激した早苗は思わずギュッと抱き締めた。 「要くんにみなちゃんとあんちゃんのサポートお願いするから、僕は平ちゃんたちのお散歩行って…早めにお手伝いに行くね。 小麦ちゃんも少しお散歩する?」 実家の愛犬、小麦は妊娠中で念のため平九郎たちと分けて過ごしているのだ。 「そうね。ちょっとだけお願い。 …ありがとう。紅葉くん、宜しくね。」 「はい!」 バタバタと忙しい時間があっという間に過ぎていく…。 早めの食事を終えた要は、手伝うと言ってくれて、紅葉について客室を周り一緒にお客さんのお布団を敷いてくれたり、食事の後片付けや売店の手伝いも。 久々の労働に心地良い疲労感と充実感を得ることが出来た。 フロントで外国人客に通訳をする紅葉を見て、すごい…と呟く要。 そこへ早苗がやってきて、教えてくれた。 「ふふ…。最初はね、私やスタッフの説明を通訳してくれてたんだけど、自分で調べたり、実際に行ってみて覚えたり…努力家よね。」 「本当に優しい子だよ…。 要くんも、ありがとう! アイスでも食べて。」 凪の義父も差し入れをくれた。 羨ましい…というか、家族から腫れ物扱いされていた要には眩しいくらいの理想の家族像が確かにそこにあった。 それから… 昼寝のおかげで2人とも眠くなくて、アイスとお菓子を摘まみながら恋話を始める。 「あの…、昼間公園で…、ほんとにキスしてた?」 「っ! う、うん…。 なんか……つい。 恥ずかし…(苦笑)」 「この、写真も…!すごく素敵。」 ドイツでの挙式写真(紅葉が凪の頬にキスしてる写真)を見た要がキラキラした瞳で言ってくれた。 「ありがと…! 珊瑚が…撮ってくれたの。 あ、僕の双子のお兄ちゃんで、フォトグラファーなんだよ…!こんな撮ってると思わなかったんだけど…、嬉しかった。」 「綺麗…!」 褒められて照れる紅葉。 「へへ…。 あ。ゆーじくんとは順調? 東京の生活には慣れた?」 「うん…。優しくしてくれる。 いろいろ必要なもの一緒に買いに行ったり、選ぶのも楽しくて…。 人が多いからまだちょっと一人でどっか行くのは自信ないけど、マンションの周り散歩したり…スーパーくらいは行けるようになったよ。」 「そっか!すごいね! 僕はよく迷子になってたよ(苦笑) クリスマスは?楽しく過ごせた?」 「はは…っ!僕も気をつけよう。 あ…、えっと…。イルミネーション見に行って…お家でチキンとケーキ食べたよ。」 「そっかー!」 「あの…、手は繋いだんだけど…! それ以上は…まだで。 僕、緊張しちゃって全然ダメなんだ。 ゆーじくんが…、すごく気をつかってくれてるの分かる…。ゆっくりでいいって言ってくれてるし…。でもいつまでそれで…いいのか迷ってて…。」 「そうなんだね。 気に、なってる?」 「うん。 その先…興味もあるし…! 一緒にいてゆーじくんが優しいの分かったから、信頼してるし…それでも…まだちょっと怖いのもある。」 「分かるっ! 葛藤ってやつだよね!」 「…あのね。 僕…トラウマがあって。その…っ、こ、行為に。 もしゆーじくんとそういう関係になって、途中で思い出しちゃって、パニックになって、嫌われたりしたらどうしようって…それが一番怖いんだ。」 「……そっか。 それは…怖いよね。 好きだから、怖いよね。」 「うん…。」 涙する要を宥めて、紅葉も策をいろいろ考えてみるがいい案は浮かばず… 2人で悩むより…と、沖縄旅行中のユキと、ドイツの珊瑚とビデオ通話してみることにした。 「ユキくんは発想が柔軟でね!頭が良くて、 あとすごい一途なの! それに珊瑚も要くんと似たような悩み抱えてたから、参考になるかも!」 「緊張する…!」 要はそう言いながら、PCの前で正座した。

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