175 / 226

第183話(12月④)(4)※微R18

ビデオ通話は雑談から始まった。 「今日もジンベイザメ見てきたよ。 毎日見てるんだー。」 ユキはにこやかに話す。 確かに沖縄の水族館は有名だけど…と、驚く紅葉。 「えっ? 毎日水族館?」 「うん。すごい迫力あるのに癒しも最強で。 なんかあいつが通ると小さなこと全部消える…。 でっかい黒板消しみたい。」 「「黒板消し…?」」 ユキの表現に紅葉と要の声が揃い、珊瑚は関心を寄せる。 「へぇ…、写真撮りてぇなー。」 フォトグラファーの珊瑚は次に来日するなら沖縄もありだと呟く。 「あ、話しなんだっけ? 好きだけど怖い…だっけ? んー…、実は僕は…死のうと思ってて、その前にSEXしてみたくてしたから怖さはほとんどなくて。 まぁ、でもその時はそんなに好きはなかったんだよね…。 でも…他の人と寝てみようと思った時、なんかね、"あ…違う"って思った。 好きか嫌いかは曖昧で…好きって分かった。 それから死にかけて、葵と生きたいって思えたよ。」 「………えっと…!」 相談してみたら思ったより、ヘビーな告白に言葉のない要。本当の話なら自分のトラウマなど小石につま付いたくらいの話だ…。 「…おい、紅葉ー! お前の親友だいぶヤバいぞー(笑)」 珊瑚はツボに入ったのかゲラゲラ笑っている。 「…ユキくん!要点まとめすぎなの! あのね、いろいろあって、今は幸せなんだよ! あと旅行行けるくらい元気!」 「…ハハ…!」 紅葉のフォローに要は空笑いだ。 珊瑚も明るく話す。 「俺はあんま褒められた経験値じゃないけど、パートナーに恵まれたらしい。 いろいろ悩んだけど、ヤッてみたらやっぱその他とは全然違った。別物って感じ。 それが分かったらなんか吹っ切れたんだよなぁ。 あー、過去を開き直るわけじゃねーんだけど…。 正直こればっかりはヤッてみないとわからないと思う。身体の相性とかもあるし。」 「…その…ダメだったらどうしたら…っ!」 要の不安に紅葉が答える。 「別に最初の一回で全部が上手くいかなくても大丈夫だよ!僕は…僕も、怖くて、大丈夫って思えるまで待ってもらって…。 ある時ね、大好きが止まらなくなって…そしたらなんか大丈夫だった。 上手く言えないけど、ちゃんと伝えたら、分かり合えるよ。」 その言葉に要は少し安心した表情を見せた。 「じゃあ…まずはキス、してみたいな。」 「あ、そこからか…(苦笑)」 要の呟きに珊瑚は拍子抜けしたらしい。 「いつ、したら…」 「付き合ってるなら…別に、したいと思った時にすれば?」 「うん。一緒に住んでるならただいまとか、おかえりの時は?」 珊瑚に続いてユキもそう答えた。 と、ここで他の声が入ってくる。 「珊瑚ー? 薪割り終わったよー。 マジで寒い!耳凍った。ってか腰ヤベー…!」 「あ、翔くんだ。 元LIT Jのドラムで 珊瑚のパートナーだよ。」 紅葉の説明に要は頷く。 「お疲れ。」 チュ…っと何度かキスを贈る珊瑚。 「洗濯物畳んで、アッシュのユニフォームが泥ヤベーから手洗いしといて。 あ、それ終わったらブロック肉も切っといて。」 「えー? 珊瑚もやろうよー。」 「俺は今忙しい。 一人にミルクあげながら、もう一人寝かし付けて、恋愛相談のってんだぞ?」 「んー、分かったよー。 わあー…可愛いねー!同じ寝相だ! 写真ー! 珊瑚、あとでご褒美ちょーだいね。」 「哺乳瓶も洗ってー!」 「…こういう使い方出来る人、尊敬する。」 「日本語でアメとムチって言うんだっけ?」 ユキが珊瑚を崇拝し始めて、収拾がつかなくなりそうなの切り上げることにする。 終わり際、珊瑚にまた双子を預かってるの?と聞いたら早口のドイツ語で説明された。 「母親が育児ノイローゼらしい…。 やっぱ双子って大変なのかな…。 施設に入れるかもって聞いた…! それなら俺に…くれればいいのに…!」 「珊瑚…! 大丈夫?」 「俺には翔がいるから平気だ。」 「珊瑚ー? さっきどっちの子にミルクあげたっけー?」 僅かに微笑む珊瑚と陽気な翔のやりとりに紅葉も安心して通話を終えた。 「ごめんね、余計混乱したかな…?」 「…なんか元気出た。」 「良かったー! そろそろ凪くんに会いたいし、夜食でも持って行こうかなー?」 「…ほんとに、大好きなんだね。」 「…うん…っ!」 少しずつ笑顔の増えていく要を見て、紅葉も嬉しそうに微笑んだ夜だった。 End

ともだちにシェアしよう!