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第189話(2月)(3)

葵もユキもかなり沖縄が気に入ったようで、別荘として使えそうな物件まで探していたそうだ。 ホテルでも良いが、ユキの体調をみて気軽に行けたり、猫たちも連れて長期間滞在するならと考えてのことらしい。 「えっ?! それはビックリ! それで、お家買ったの?」 「ううん…。 いいとこあったんだけど、男同士のカップルって言ったらオーナーさんが……その、難色示して…。」 「そうなの? それは酷いね。大丈夫?」 ドイツだったらその人訴えられるよ!と怒る紅葉。 「ううん、そこから葵の機嫌がめちゃくちゃ悪くて大変だったよ(苦笑)」 「あ、なんか分かる…(苦笑)」 「だから葵といられれば沖縄じゃなくてもいいよーって言ったの。 でも旅行はほんとに楽しかった! 別行動の時もあったけど、そんな寂しくはなくて。僕は水族館にずっといたし、葵はビーチとか部屋で歌詞考えてたよ。 あといつもより…まぁ途中までが多かったけど、エッチも…出来たし。 葵、優しかった。 あ…、あのね、これ……もらった。」 ユキが首にかかったネックレスからそっと指輪を見せてくれた。 「…わぁ! キレイな指輪だね。 そっかぁ…!良かったね!」 その指輪はシンプルだが、一目で上質な物だと分かるくらいのもので、そこに葵のユキへの気持ちが込められていると思うと紅葉も胸がいっぱいだった。 「…僕、これ…つけてもいいと思う?」 「うん!つけて見せてー!」 「どこの指かな…? 葵はいっぱい持ってるけど… なんかゴツゴツしたやつ。 僕、指輪なんてつけたことない…!」 「絶対薬指だよ! 葵くん嵌めてくれたら良かったのにね! シャイだもんねー!」 「…でも…!」 その意味の重さはさすがに知っているので、もらってからつける勇気がなかったようだ。 「文字が彫ってあるよ?読んだ?」 戸惑うユキに指輪の刻印を教えると、ユキは知らなかったようで指輪の裏側を覗き込む。 "be with you" 「っ!」 喜びと驚きで自然と涙が溢れるユキ。 紅葉は興奮気味にユキを抱き締めた。 「ユキくんっ!ユキくんー! おめでとうーっ!」 その夜… 恐る恐る指輪を嵌めたユキは葵に電話をした。 「葵…ありがと。」 「え?何?」 「指輪…」 「…お前…やっとつけたの?」 「うん。 どう…かな?」 「んー、まぁ…いーんじゃねーの?」 彼の反応を見る限り、指輪は左手薬指用で間違いなかったようだ。 「ありがと…。 あの…、葵のもあるの?」 「一応…あるけど。」 葵はまるで照れ隠しのようにゴツゴツしたシルバーリングと重ね付けしていた。 なんとも彼らしくてユキは笑う。 「お揃いだ…! 嬉しい。」 「…そ。 もう寝たら?」 「葵…、歌ってくれる?」 「はぁ? 俺今日LINEで2時間半歌って…!」 「1曲だけ。お願い。 葵の歌で眠りたい。」 「子守唄かよ(苦笑) しょーがねーなー…。」 その頃、紅葉も凪と電話をしていた。 「それでね、 なんだか僕まですごく幸せな気持ち! ユキくん、葵くんと会いたくなったって今電話してる。」 「そっか…。良かったな。 ってか、葵も変わったよなぁ。 新曲の歌詞もさ、スゲー評判良いよ。」 自己都合主義者だった葵が、ユキと出逢い、初めて同棲までして…命をかけたユキの献身的だけど不器用で真っ直ぐな愛を受け入れ、 相手を幸せにしようと決意するまでになるとは誰も予想していなかっただろう。 「ふふ、そうなんだね! 僕も凪に会いたくなっちゃった。」 「…俺も…。 でも紅葉の楽しそうな声聞いてるだけで元気出てきた。紅葉は?頑張れそう?」 「うん…っ! ユキくんも幸せだし、要くんも頑張ってるから僕も頑張るっ!」 翌日、ユキを自宅に送り、少しだけ愛猫を見せてもらった。仕事のあとは、池波氏に頼まれた買い物を済ませて届け、自宅から平九郎と梅を連れてイトコのみなの家に向かった。 愛樹と愛犬たちと楽しく過ごし、夜は久々に2人で音楽に集中する。 みなとの音楽制作は凪との練習や曲作りとはまた楽しさが違う。 幼い頃の想い出や不思議な感覚の渦の中から生み出される音は、すごく繊細で形作るまでが難しいのだが、何もかも忘れて没頭したくなるのだ。母たちもそうだったのだろうか。 「あの、そろそろ休憩したら?」 愛樹を抱っこした光輝に声をかけられたことに気付いたのは翌日の昼前でさすがに驚いた。 「へ、平ちゃんたちのご飯!お散歩!」 「愛樹!」 「…どっちもやっといたから大丈夫。」 光輝のフォローに感謝して、2人は気を失うように眠りについた。

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