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第203話(2月③)(3)
終演後…
紅葉は終演直前にバックステージに向かい、関係者に挨拶をして回る。
人が少なくなってから移動する予定だった要とユキだが、力が入らず動けないというユキ。
要がユキをおんぶして運んでいたところを、スタッフに声をかけられて一先ず会場の隅に椅子を用意してもらい休むことに。
2人とも恋人からバッグステージパスはもらっているが、きっと元メンバー翔の登場とAoiの爆弾発言の影響で多くの関係者やミュージシャン仲間でごった返しているに違いない…。
そう思うと入り込んでいいものなのかと迷っていた。
「紅葉くんはすごいね。
ちゃんと対等な立場で、堂々としてる。
公私共に支えてて…カッコいいな。
こんなすごいLIVEのあとでもいろんな人に挨拶いったり…!」
ユキが呟くと要も頷いて同意する。
「ほんと…。
あ!連絡!
ちょっと待ってね!
ゆーじくんに連絡して葵さんに伝えてもらうから!」
「ありがと…。」
それから間も無く、葵はユキの元へ駆け寄ってきた。その顔はさっきまで自信満々にステージに立っていたAoiとは違い、ひどく怯えて不安そうだった。シャワーを浴びた髪も濡れたままで走ってきたようで、慌てたままユキの顔を覗いている。
「ユキ…っ!
お前…っ!
大丈夫か?!」
「…うん。
もう平気…。
葵、お疲れ様。
すごくカッコ良かったよ。
カッコ良すぎて力抜けただけ…」
「……ほんとに?
ほんと、何ともないよな?」
「…うん。心配させてごめんね。」
床に座り込む葵の指先に触れて謝るユキ。
一般のお客さんはもういないようだが、まだ大勢の人がいる中で葵に触れてもいいのか悩んでいた。
「はぁ…!
良かった…。」
そんなことは気にせず葵はユキをギュッと抱き締めた。
それだけで胸がいっぱいになるユキ。
本当に葵は変わったと思う。
「葵……っ!
…あ、呼んでるよ?
…僕先に行ってるからみんなのとこ戻って?
髪も拭いてね。風邪ひいちゃう…。」
ユキは慈しむように葵の髪に触れた。
離れがたいが、葵にはまだ仕事が残っている。
「…悪い…。
まだバタバタしてるから…時間も読めないし…!部屋で休んでた方がいい。
ほんとに大丈夫なんだな?
薬は?持ってる?
ごめん…、今車用意させるから…。」
「うん。」
「あ、僕が一緒に!
送ってくんで…!」
要がそう告げると、葵は立ち上がる。
「…ありがと、頼むね。
ゆーじに言っとくから…」
タクシーに乗り込む直前、紅葉も2人に合流し、葵とユキが宿泊するホテルへと向かった。
「すごい…!」
その部屋の豪華さに驚く要と紅葉だったが、ハッとしてまずはユキ休ませる。
飲み物と薬を飲ませると落ち着いたようだ。
「ありがとう…。もう平気。」
「紅葉くんヴァイオリンの練習しないとだよね?僕ゆーじくんが迎えに来てくれるまでユキくんといるから大丈夫だよ。」
「要くんが寂しいんでしょ?
ここにいてもいいよー。
ルームサービス頼む?」
冗談を言うユキに安心して3人は笑う。
紅葉はLIVEの余韻でぽわぽわする頭でいたが、なんとか思い出した大事なことを確かめる。
「あ、そうだ!
結婚、したの?」
「あ、うん。
でも僕たちの住んでるとこは同性間のパートナーシップ導入されてなくてね…。
別に形に拘らなくても良かったんだけど…
養子縁組して…葵と家族になったよ。」
「わぁ…っ!おめでとうっ!」
「おめでとう…!」
「すごい嬉しい!
あ、そうすると…?
ユキくんはファミリーネームが変わったの?」
「…葵が僕の両親の養子になってくれたの。LIVEの前にお母さんと役所に行ってきたんだ。手続きとか間に合うか微妙で、内緒にしててごめんね。」
「わぁお!今日の話なんだ!
ユキくんのご両親ほんと理解あるね。」
「おめでとう!また今度お祝いしよう!」
「ありがとう…!」
はにかんだユキの笑顔は輝いていて、紅葉は幸せで優しい気持ちでヴァイオリンが弾けそう!と言って帰宅した。
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