196 / 226

第204話(2月③)(4)

「…? 凪? 帰ったのー? …あーぁ…!…もう…っ!(苦笑) 今日はしょうがないか…!」 深夜を回って帰宅した凪は親友で先輩で義理の兄でもある翔と共にリビングの床に転がっていた。 愛犬の平九郎と梅も何事かと起きて2人の匂いを嗅いでいる。 飲んで帰るから遅くなると連絡はあったものの、2人とも見事にベロベロである。 しっかり者の凪がここまで酔っ払うことは珍しくて、多分…翔がLIT Jを脱退して日本を離れる時以来だ。 あの時は寂しさの募る飲み会だっただろうが、昨夜はLIVEも翔との再会も相当楽しかったのだろうと紅葉は思わず笑ってしまった。 紅葉1人では大男2人を2階のベッドへ運ぶことは不可能…。 床暖房とエアコンはついているので毛布を運び、ペットボトルの水と念のためにビニール袋もセンターテーブルに置いておくことにする。 一瞬自分もソファーか凪の隣で寝ようかと考えが過ったが、明日の演奏に備えて寝室へ向かうことにした。 「いいLIVEだったなぁ…! 凪くんカッコ良かったぁー!ふふ。 明日、緊張するけど…僕も頑張ろう…!」 翌朝 「おはようっ! カケー!凪ー!起きてっ!朝よーっ!」 「きゃー!あはは…っ!」 「うわ…、酒臭…!(苦笑)」 「ー…っぁ? …あー…天使…? …うっ、あ、たま、痛…っ!」 「何…? 愛樹?と、…サチっ?!」 のそのそと起きた翔と凪。 凪は紅葉の妹のサチがいることに気付き驚いた。 「サプライズなのよ!凪ー! 朝ごはんをどーぞ! サチ特製サンドイッチよ! ねぇ、カケも食べて!美味しいよー!」 「さっちゃん、元気だね。 …お願い、ちょっと声のボリューム落として…!サンドイッチ…?ありがと。 でももう少し後でで食べるね…。」 「二日酔いー? 凪、スープ、キッチンに置いとくねー。 あ、紅葉に散歩頼まれて、鍵預かって勝手に入ったよ。」 朝から元気な女の子2人を連れてきたのは近所に住むみなだ。 さすがに飲み過ぎたのでありがたく彼女に愛犬の散歩を任せることにする。 「…紅葉もう出た?」 「うん。」 「うわ…、マジか…!」 昨夜は3時頃帰宅して、遠くで紅葉の声を聞いたような気もする…。 毛布や水は紅葉が用意してくれたはずなので、多分3~4時間程度しか眠っていないのだろう… 「…とりあえず全然怒ってる感じなかったよ。 サチときゃっきゃして仕事行った。 私散歩行くから2人のこと頼むねー。 あ、翔くんの着替えも適当に持ってきたから置いとくよ。」 「了解…。 そっか…、みなのとこにいたのか…。」 「みなちゃんありがとー。 そう。着いた日は実家の系列ホテル泊まったけど…さっちゃん一人にしとけないから昨日は頼んで…。紅葉くん来るってタイミングだったけど…光輝と誠一もいたからさっちゃんと買い物行ってもらってさー。」 「絵本とお靴買ってもらったのっ!」 「良かったねー!あとで見せて! ってか…愛樹? うわ…、大きくなったねー…! 翔おじちゃんだよー?覚えてる?」 ベチベチ顔を叩かれながら翔はそう告げるが、愛樹は気にすることもなく気ままに遊んでいる。 シャワーとブランチを済ませ、ボーっとしながらもPCを開く凪。眠いが、今頃紅葉も頑張っているのでダラダラする気にはなれず気合いを入れる。 「仕事ー? 忙しいね。」 「んー、おかげさまで。 翔くんは?」 「あー、飲みの誘いばっか(苦笑) サプライズしたかったからみなと光輝にしか帰国のこと言ってなくて。 んー、流石に全部は行かないけど、あー…明後日飲み行ってもいいかなー?」 スマホを眺めながら翔が訊ねる。 久々の帰国に友人や音楽仲間からの誘いで通知が埋まっていくようだ。 「いいんじゃね…? 夜ならサチはうちで預かるし。 とりあえずこの時間でスケジュール確認しとこ?」 「ありがと。 上手いこと俺も仕事入るといいんだけど… まぁ、来月のためにアポ取り頑張る。 せっかくだからさっちゃんどっか連れて行きたいけど、寒いしどーしよっかな…。」 「サチね、原宿に行ってみたい!」 「「原宿……?」」 思わず声が重なる翔と凪…。 人混みプラス若者の街…ハードルは高い。 「んー…!分かった。でもちょっと保留ね。 原宿…、渋谷…?ほんと若い時に遊び行ったなぁ…懐かしい(苦笑)」 「あ、そうだカケ! お隣のおじいちゃんにご挨拶に行きましょう? サチ、ちゃんとお土産持ってきたよ! 珊瑚お兄ちゃんに言われたやつ!」 「あー、そうだった! ありがと、さっちゃん。 助かるー!」 「なるほど…。 サチはしっかりしてるなー。」 今回の翔の帰国は家族の同行もOKだったようだが、何せ人数が多い…。 サチが選ばれたのは翔が悪い遊びをしないようにという珊瑚の策のようだ。

ともだちにシェアしよう!