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第205話(2月③)(5)

そこからの数日間はあっという間だった。 凪と紅葉の家の客室にはベッドが1台しかないので、とりあえず客室には翔が寝て、寝室の大きなベッドで凪と紅葉はサチを挟み3人で仲良く眠ったり… 葵とユキの家に遊びに行き、猫と遊んだり… ペースメーカーユーザーという同じ境遇のユキとサチはまるで戦友のように語り合っていた。 サチは凪に料理を習ったり、夕食にバンドメンバーみんなで鍋を囲んだり… なんとも健全な夜が過ぎていく。 そして仕事の都合で断念しかけていたが、サチが行きたがっていた原宿にカナとあやな(サスケの彼女)が遊びに連れて行ってくれた。 女子3人で買い物巡りをしてお土産も買い、めちゃくちゃ楽しかったようだ。(けっこうな金額になり翔が青ざめていたので凪が半分出してあげた) サチは数多くのモデルのスカウトを受けたらしく、紅葉が載った雑誌が見たいと言うサチに翔は頭を悩ませていた。 「紅葉お兄ちゃん綺麗ー! お洋服も可愛いね!」 「ほんと? なんか恥ずかしいなぁ。 …でもありがとう! さっちゃんはお洋服が好き? モデルさんになってみたい?」 「んー? サチはね…絵本を描く人になりたいの! でも…モデルさんになったらお金たくさんもらえる?」 妹の質問に紅葉は分かりやすく、慎重に答える。 「うーん。 お金は…もらえるけど、たくさんもらえるようになるには経験や時間がかかるよ。 すごく寒い日に夏の服を着たり大変なこともあるんだよー!」 「そっかぁ…!」 「さっちゃん…! お金のこと心配しなくて大丈夫だから…、ね?」 夕食の片付けをしていた翔がやってきて、目線を合わせてサチに言い聞かせる。 「カケ…! あのね…サチもお家に赤ちゃん来て欲しい! でもね、お金たくさん必要なんだって! アッシュお兄ちゃんが教えてくれたよ?」 「…赤ちゃん?? えっと?」 まだ翔と珊瑚がこどもを迎えたいという話を知らない紅葉は混乱していた。 「うん! 赤ちゃんが来たらサチママになるんだーっ!」 「ママっ?!」 「ふ…っ!」 予想外の発言に驚く翔と思わず吹き出す凪。 「うちはパパ2人いるけど、珊瑚お兄ちゃんはホントはお兄ちゃんだし、お兄ちゃんはもういっぱいだし、お姉ちゃんもいるし…でもママはいないからサチがママになるー!」 「へぇー…! なるほど… よく考えてるなぁ。」 「そっか…。さっちゃんは優しいねー!」 感心する凪と紅葉にプチパニック状態の翔。 深呼吸して、サチに話をする。 「…さっちゃん…、うちに赤ちゃん来るにはもうちょっと時間かかりそうだよ。 お金だけの問題じゃなくて…命だからね。 上手く説明出来なくてごめんだけど、いろいろ難しいことがあるんだって…。 でも俺も出来ることから頑張るから待っててくれる? あー、話それたけど…、えっと、モデルになるといろんな人に見られて、有名になると危険もあるんだよ。 中には悪い人もいるしカメラマンも変なやつだったりしたら心配だから止めとこうか? …珊瑚もきっとそう言うよ。」 「分かった…。 カケ、お話してくれてありがとう。 …じゃあお兄ちゃんに撮ってもらうね。 それならいいでしょ?」 「おぉう…!…頭いーね! じゃあ帰ったら珊瑚に聞いてみようね。」 「うん!」 超過保護な珊瑚がサチをモデルとして表に出すとは思えないが、撮影だけならしてくれるかもしれないと翔は考えていた。 サチの気持ちを考えるとモデルは絶対にダメだと言うのは避けたかった。 ただ、その場合のサチの衣装代など経費が自分の小遣いから引かれないことを願う他ない…。 「サチも意外と気が強いよな…?(苦笑)」 凪にそう言われ、翔は小さく2回頷いたのだった。 最終日… この日は紅葉が幼稚園の卒園記念式典でのヴァイオリン演奏の仕事があり、お昼から凪と紅葉、翔とサチ、そして愛犬の平九郎と梅を連れて遊びに行った。 近場だが、自然豊かな所で草花のスケッチを楽しむサチと傍らでヴァイオリンを奏でる紅葉。 翔と凪は沢釣りで競争し、釣れた魚に平九郎と梅は大はしゃぎ…夕食前にみんなで蕎麦作りも体験した。 綺麗なコテージに泊まり遊び疲れたサチと愛犬たちが眠ったあと、3人で晩酌。 今回の帰国を振り返る翔。 「あー…やっぱいーな…日本。 打ち立て蕎麦最高…! あと日本のビールもうめぇ! でも一番ビックリしたのはやっぱアレだな。 まさかママになるつもりだったとは…!(苦笑)」 翔は思い出しながら笑い、凪も同意する。 「ホント…(苦笑) こどもらしいってか、発想がスゲーよ。」 「さっちゃんなりにいろいろ考えてるんだね。 身体の大きさだけじゃなくて、中身もどんどん大きくなっちゃうんだね。」 「…寂しい?」 しんみり紅葉に訊ねる凪。 「うーん、少し…ね。 さっちゃんもだけど、みんなだんだん大きくなって学校や友達の交遊関係が広がっていくでしょ?夢ややりたいこととか見つかって…それはとても素敵なことだけど、こうやって一緒に遊んだりすることも少なくなっていくのかなぁって思うとね…!」 「そっかー! こどもの成長ってあっという間だよね。 毎日てんてこ舞いだけど実際してあげられることも期間もほんのちょっとなんだって、やっと親目線?ってのが分かってきたよ。 あれ?…でもあの家だと…紅葉くんが独立するの一番最初だったよね? しかもいきなり日本行くし(笑) 珊瑚もビックリしたって今でも時々話してるよ。一番臆病なのに、お試しで日本来たら凪に一目惚れしてからの行動力ヤバかったって。」 「…!(苦笑)」 紅葉の行動力の原因である凪は苦笑するしかなかった。 「…そっかー!そうだった!(苦笑) …じゃあ今度は僕が見守る番かぁ(苦笑)」 そう言うといつもの明るい表情で笑う紅葉。 「心配しなくてもきょーだいの仲良いのは変わらないよ。 俺と凪だってこうやって会えばめっちゃ仲良しだろー?」 「…確かに! こどもみたいにはしゃいでたね!」 紅葉の指摘に2人は大笑いをした。

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