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第209話(3月)(3)※微R18
和室に向かう凪…。事後の気だるさを隠しきれてないだろうが、休憩中の義弟をあまり待たせるのも悪いし、仕方ない。
「お待たせ…。」
なるべく自然に振る舞って向かいに座る凪。
「あ、ごめんね…!
お疲れのところ…!」
差し出された缶ビールを空けて2人で喉を潤す。
「いや…、
あー……ごめん。うるさかった?(苦笑)」
思えば真上が彼の自室だ。
情事の声が聞こえてても不思議ではない…。
今後のことを考えて凪は一言謝った。
「…?
っ!ごめん…!
えっ?! あ…!そーじゃなくて…!
あの…、大丈夫!
今こっち来たばっかりだから…!
ホント!
ごめんね!
部屋はリフォームしてるけど、古い家だから音も響くし、気遣うよね!
でも…あの、気にしないで!」
言い訳するほど苦しくなっていく状況に義の顔は赤く、さすがの凪も気まずい。
「……いや…、あー…紅葉には気付いてないフリしてやって?(苦笑)
ってことは…、話って?」
「あ…っ!
あ、うん…!
仕事のことなんだけど…!」
その後はなんとか切り替えて最近役職のついた義から仕事の相談を受けたのだった。
「禁欲とか無理だし…」
昨夜を振り返り、はぁ…とため息を付きながら身支度を整えると、何かとウマの合わない料理長に嫌味を言われる覚悟で厨房へ向かう凪。
案の定、料理長は頭ごなしに新人を怒鳴っていた。タイミングは最悪…。怒りの矛先が凪に向いたようだが、本人は全く聞く耳を持たずに提供の遅れている物からヘルプに入った。
「誤発注?何? 卵?
あー、あとでリーダーと義く…副支配人に相談すればいいから…。
ここいーから、サラダから盛り付けやって?」
「はい…っ!」
「てめぇ、何勝手してんだ!」
「…朝からよくそんな怒鳴れますね?
あんたが仕事遅らせて、お客さん待たせてんの分かんないかなー…。
説教はあとにして先に手動かしましょうよ。
久保、落ち着いて…。出来るよな?」
「…はい。やります。」
凪が聞くとなんとかそう答えた新人の肩をポンっと叩き、凪も作業を続ける。
「ん。宜しく。
ヤムさーん? 白5の皿、7個ー!」
「ハイ!」
「ありがと。
次、みどり4の皿に…みかん、分かる?
Japanese Orange…!
ダンさんとDessert Setting Start…宜しくお願いします。」
「「ハイ!」」
外国人シェフは技能実習生だ。
英語も交えて指示を出して行く。
きちんとお礼の言葉や敬語も入れるのは彼らを対等に見ている証。一瞬で厨房の雰囲気が変わり、凪を中心に作業が回っていく。
後片付け(というか後始末)を終えて、凪がイライラしながら母屋へ戻ると、紅葉が小麦の産んだ子犬とじゃれていた。
どうやらご機嫌は悪くないようだ。
「凪っ!
おはよー!
お帰りなさい!お疲れ様!
ねぇ見てー!すっごい可愛いよーっ!」
朝から満面の笑みの紅葉を見て、自然と凪の怒りも収まる。
「昨日も見たって(笑)あんまり子犬を可愛がってると平九郎たちがヤキモチ妬くぞ。
もう支度出来ての?」
「バッチリ!
2人(2匹)ともちゃんと可愛がってるよー!
みんな仲良し!」
心配していた対面も特に問題なかったようで、でも念のため部屋を分けてから出かける。
どこへってさすがに朝からホテルではない。
「苺ーっ!」
いちご狩りだ。
しかも…
「ジュースとかアイスもあるみたいだよ。
楽しみだね。」
「最高っ!
アイス食べたいなぁ。」
「紅葉くんアイスは寒くないかしら?
ジュースにしたら?」
両親も一緒だ。
「えー! 迷うー!」
「ふふ。
あ、ねぇ!
さっきニュース見たら今日は午後から雪が降るかもですって。
もう3月なのにね…。
お客様大丈夫かしら…。」
「義くんに任せたから大丈夫だよ。
でも一応早めに帰ろうか。
凪くん、この車ってスタッドレスタイヤ?」
「一応…。」
朝からテンションの高い3人に囲まれて、凪は困惑気味…。目指すは苺農園だ。
紅葉はFCイベントの反省を活かして、今日はニット帽子にロングニットとジーパンというラフな格好での参加。
朝食もおにぎり一つにしていて、普通にめちゃくちゃ苺を食べる気で来ている…。
「甘いー!美味しい!」
「美味しいわねー!」
「こっちのは小ぶりだけど、味が濃厚だよ!
食べてみて!」
「…美味しいー!」
「最近はいろんな品種があるのね~!」
両親も写真を撮りながら久々の苺狩りを楽しんでいるようだ。
「凪ー?
お仕事大丈夫?」
途中から急な作業確認のため抜けた凪は、車内にいた。紅葉から借りたタブレットを使いスマホで通話しながら仕事中だ。
「ん。もう終わる…。
そっちももういいの?」
「うん!
今お義母さんたちお土産選んでるよ。
あの…!凪…、昨夜…ごめんね?」
「ん?
えっ? 何?」
急にしゅんとして謝る紅葉に驚き、手を止めた凪はその顔を覗いた。
「…何か拗ねたみたいな態度とって…!
あの…、恥ずかしくて…!」
「あぁ…。いや…、そーだよな。
俺も配慮が足んなくてごめんな?」
「…触れ合えて幸せって…言ってくれて嬉しかった。
僕も…、同じだから…!」
「ん。」
仲直りのキスをして、微笑み合う2人。
改めて些細なことでも言葉にして伝える大切さを知る。
「…腹減ったなぁ…。何か食べてく?
苺でお腹いっぱい?」
「ううん!えっと…ラーメン!
温まろう!」
「はは…!
ってかさ…、めっちゃ唇甘いんだけど何食った?(苦笑)」
「あ…っ!苺ミルクジェラート!(笑)」
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