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第210話(3月)(4)
帰宅途中にラーメン屋さんでお腹を満たし、両親の希望で道の駅にも寄った。
2人が買い物をしている間、凪と紅葉は時間潰しのために隣のゲームセンターを覗きに来ていた。
「……誰もいねーな…(苦笑)」
平日の昼間。
田舎の片隅にあるマイナーなゲームセンターは人もまばらで、アルバイトだろう店員はスマホを弄りながらサボっている…。でもどこにいても目立つ2人にはちょうど良かった。
「よし!せっかくだからちょっとやってみようかな…!」
クレーンゲーム機を前に紅葉はコインを入れる。
積み上がった景品がぐらぐらと揺れて…、2回目のチャレンジで見事に崩れた。
ガラガラガラ…っ!
「わぁーーっ!
やったぁ!!
見てっ!いっぱい取れたよーっ!」
「………。いや、これどーすんの?!
こんな大量に!(苦笑)」
取れたのはお菓子ではなく、大量のカレールー…
とりあえずもらったビニール袋に詰めて戻ると(3袋分!)両親も驚いていた。
「あらすごいわね!紅葉くん!
カレー?」
「ちょうどじゃがいもと人参、玉ねぎ買ったんだよー!」
タイミングいいね!と話す義理父の正は紅葉とハイタッチをした。
「やった!早速今日の夜はカレーだね!
カレー大好き!いっぱい食べれるね!」
「…甘口ばっかなんですけどー?(苦笑)
ってか、さすがに食いきれないでしょ…」
凪は大量のカレールーの消費に頭を悩ませていた。期限のあるものだし、食品を無駄にしたくはないと紅葉も考える。
「そうだよね…。
じゃあバイトの子とかにあげてもいいかな?」
「あ、喜ぶと思うよー。
あと、こども食堂で使えるかもしれないから義くんに聞いてみて。」
「うん!」
寒い寒い…と口にしながら車に戻ったところで、空から白いものが降りてきて早苗が声を上げた。
「あ…、降ってきたわー!見て、雪よー!
凪…運転大丈夫?気をつけてね。」
「まだ降り始めだし余裕ー。」
「…わぁ…、雪だぁ!
綺麗だねー!
日本の雪景色好きだなぁ…。」
窓の外を眺めながら紅葉はそう呟き、田舎道に降る雪をスマホで写真を撮り始める。
「大きくて水分の少ない雪だね。
少し積もるかな…。
早苗さん、念のため帰ったら雪モードで除雪材撒いたり対策考えましょう。」
「そうね。
お客様も心配だけど、
スタッフもお家の遠い子は早めに帰宅させたいわね。」
仕事モードに切り替わる両親を見て自分と紅葉も似た時があるなと思う凪。
阿吽の呼吸で力を合わせられる信頼関係は、互いの絆を更に強めるのだ。
「…僕もお手伝いする!」
「ありがとう。
休憩してからでいいからね。
凪も疲れてるとこ悪いけど、お願いね。」
春休み前のオフシーズン、所謂閑散期だが、従業員が交代で休暇をとるタイミングなので人手不足なのだ。
「了解ー。
紅葉、とりあえず平九郎たちの散歩早めに行こう。」
「そうだねっ!」
帰宅する頃にはうっすらと地面が白くなっていて、散歩から帰宅する頃にはぼたん雪が降り始めていた。
空を見上げる平九郎は不思議そうな顔をしていて、梅も身体に付いた雪を舐めたりしている。
雪景色に彼女の黒毛が映えてとても美しく見えた。
一方、フロントは閑散としていて…
「…キャンセルですね。
かしこまりました。
いえ、是非またの機会に。
お待ちしております。
失礼致します…。」
はぁ…と、義のため息が響く。
雪の影響で新幹線の遅延や運休、近隣の山道も一部通行止めになっているようで既にキャンセルの連絡が3件入っていた。
「…副支配人ー!」
「うわっ!
ビックリした…!
凪兄さん…!」
「驚き過ぎ(笑)
…暇になりそうだから、夕食終わったら新人に簡単なの教えていい?
あの人(料理長)さっさと帰る気満々だし、明日から休暇だって?清々しいくらい自分関係ない感出してて笑える(苦笑)
…あっ、で。材料は適当に使うけど…。」
淡々と話す凪は怒りを通り越して呆れた様子だった。自分勝手なあの料理長には義も頭を悩ませているのだ。
「あ、はい。
もちろん!
宜しくお願いします。」
「なんで敬語?(苦笑)
あと、…露天の予約いい?
空いてるよね?」
「どうぞ!
雪見の露天風呂…最高ですよ。
熱燗でもつけましょうか?(笑)」
「おっ、いーね!(笑)
ってか、義くんもあとで飲もうよ。
つまみ作っとく。」
談笑しつつ、旅館は穏やかな夜を迎える。
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