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第211話(3月)(5)※微R18

「久々に暇ねー。」 20時を前に、女将の早苗はそう呟いた。 紅葉と一緒にロビーに飾っていた雛人形の片付けを終え、今は自宅で花の手入れをしている。 こんな日くらいたまにはゆっくり休んだらいいのにとみんなが言うが、何か作業をしていないと逆に落ち着かないらしい。 そんな働き者なところも凪と似てるなぁと紅葉は思いつつ、小麦の子犬たちの寝顔を眺める。 愛犬たちも移動の疲れと雪ではしゃいだせいか、ぐっすり眠ってしまった。 先ほど凪から「あとで露天行くから。」と言われた紅葉は昨夜のことを思い出しながら赤面していた。 行為は毎回恥ずかしいけど、やっぱり凪に求めてもらえると嬉しいし安心する。 そして触れ合えるのはもっと嬉しくて幸せなのだ。 昨日の態度と言動は少し反省しないと…と、思い、今夜は自分からイチャイチャしてみようかと感える紅葉…。 そこへやってきたのは義父の正。 「いやー、うっすら積もってきたよー。 紅葉くんデザート代わりに道の駅で買ったお菓子食べるー? …?なんか顔が赤いけど大丈夫? こたつ暑い?温度下げる?」 「あ、だ…大丈夫っ! お菓子食べる! 雪…積もったら明日雪だるま作ろうかなぁ!おとーさんも作ろう?」 「いいね! じゃあ材料用意しないと…! あ、早苗さん! その枝取っておいて下さい!」 赤面を指摘された紅葉はあたふたしながらお菓子を手に取ったのだった。 そこへドタドタと足音が響いた。 「大変っ!」 「義くん?! どうしたの? そんなに慌てて…!」 「何かあった?」 驚き声を上げた紅葉に対してすぐに制服を手に取った正の声は落ち着いていた。 早苗も立ち上がる。 「中学生を乗せたバスが…! 雪の影響で通れなくなって…! ほら、すぐそこの山道…! で、迂回路もだいぶ時間かかるらしくて…」 「まぁ…!」 「部活の試合帰りみたいなんだけど、先生と生徒で56人乗ってて…。 この時間だと大型バス停められるとこも見つからなくて…とりあえずうちでトイレとか貸してもらえないかって…。 その中で具合の悪い子が何人かでいてその子たちだけでも部屋空いてたら泊めて欲しいって…連絡が…!」 「…分かった。 とりあえず来てもらおう。 今どの辺りだって?」 正と義が話している内容に耳を傾けながら早苗と紅葉は顔を見合わせた。 そして紅葉は凪を呼びに厨房へ走る。 「家で休憩してもらって…そのあとはどうするのかしら?帰れ…ないわよね?」 「どう、しよう…。」 「…今夜の責任者は義くんだから、君が思うように決めていいんだよ。」 正にそう告げられた義は一瞬迷いの表情を見せたが、すぐに覚悟を決めたようだ。 「うちで…全員受け入れたい…。 こんな時間から宿泊先探すなんて無理だよ。人数も多いし…! 何もかも数が足りないけど…あー!ってか、多分…絶対赤字だし…。 でも放っておけないし、後悔したくない…。 とりあえず大広間に…集まってもらって…、具合の悪い子は空いてる部屋で休んでもらおう…。」 「…やりましょう。 お父さんは試すようなこと言ったけど、今は責任やお金のことなんて気にしなくていいの。 私はお父さんに反対されても受け入れるつもりよ? こんな寒い雪の日に、お腹をすかせた子供を放っておくなんて出来ません。」 「早苗さん…! 分かった。なんとか、やろう…! 僕は空いてる部屋の確認と今夜お泊まりのお客様へ事情を説明してきます。 義くんは先方に連絡して到着時間の確認と駐車場の誘導お願い。 青年団にも連絡して資材の調達…雪だから無理はしないように伝えて。 早苗さんは客室係集めて説明して、寮のスタッフにもヘルプ要請を。そのあと大広間の準備…!紅葉くんは早苗さんとリーダーに従ってお布団運んだりお手伝いお願い出来る? あ、あと外国人の研修生スタッフに通訳をお願い。 …凪くんは厨房を頼みます。 残ってるスタッフでなんとか56人分の食事を用意して欲しい。大至急。」 「了解。 あ、義くん!アレルギーの確認もお願い。 …あ、久保? とりあえず米炊いて?え?…何合? …中学生ってめっちゃ食うよね? 56…、70人分だから…」 凪はスマホに向かって指示を飛ばしている。 「凪くん…!」 突然の出来事と緊張感に紅葉は少し不安そうに凪を呼び止めた。 「紅葉……。バタバタして悪いけど宜しく頼むね。怪我とか気をつけて…。 …ってか…何作れるか……、部活終わりの中学生だろー?…何がいい?…あっ!」 「「カレーだっ!」」 2人の声が揃い、思わず笑い合った。

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