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第220話(3月)(14)

その後… 一度東京に戻るとLINKSの仕事や幼稚園、保育園での演奏会の仕事をこなしながらレコーディングに向けて練習に明け暮れた紅葉。 ドイツから翔の所属するバンドが来日して、LINKSやLIT'Jと一緒の仕事もありそれはそれは大変賑やかだった。 大阪で行われたオーケストラの練習は朝から晩まで行われかなりハードで、レコーディングは更に過酷だった。 レコーディングが終わった途端に紅葉の瞳から溢れ出た涙は辛かったからではなくて、歩夢を想ってのものだ。 歩夢の姉であるめぐみと泣きながら抱き合い、握手を交わした。 実は紅葉は自費で歩夢の名前をクレジットに残すことを願い出ていて、そんな彼らの様子と事情を聞いた音楽監督は無償で彼の名前を入れてくれたのだ。 夢が叶ったと歩夢の家族はとても喜んでくれた。 またこの映画は後にとある映画祭の音楽賞を受賞し話題を呼ぶこととなる…。 それから…凪や家族のサポートでなんとか過密スケジュールを乗り切り、歩夢の家にヴァイオリンを返しに行った。 両親はこのまま紅葉に使って欲しいと言ってくれたが、紅葉は首を横に振った。 「僕には父の遺してくれたヴァイオリンがあります。このヴァイオリンは…君に。」 紅葉は優しくそう告げると、歩夢の弟に渡した。 まだヴァイオリンを習ってなくて、その道に進むかも分からないと両親は戸惑ったが、紅葉はそれでも…と続けた。 「歩夢くんならきっとこうすると思うんです。 …お兄ちゃんの大事なものだよ。 大事にしてね。」 「…うん。」 そして… 「ほんとにいいの?」 「あぁ。2人で話し合って決めたから。」 「…そう…。 一匹はうちでって思ってるからまた会いにきてね。」 小麦の子犬を引き取る話が出ていたのだが、最終的に凪と紅葉は断わることにした。 話を聞いた時、最初はもう一匹飼うことを前向きに考えていた2人…。 でも大型犬で家に迎えた時に1才を過ぎていた平九郎と梅と共に過ごせる時間はそれほど長くないのかもしれない…。 歩夢のことがあり、改めて話し合って2匹を今まで以上に大事にしようと決めたのだ。 「ふふ…!大好きだよー!」 毎日そう伝えて2匹を抱き締める紅葉。 「紅葉ー? 平九郎たちに肉茹でたけど、どのぐらいあげる?」 「わぁ!お肉だって!やったね! よし!凪のとこに行こう!」 「わー! お前ら…! ちょっと待てっ!あげるから…!(苦笑)」 彼らのくれる温もりと優しさは何事にも代えがたい…。 「えっと最近の休日は…旦那さんとお休みが合えば一緒にわんこたち連れてドッグカフェでブランチして、河原とか公園で遊んで、家に帰ってからみんなでちょっとお昼寝…。 凪が作ってくれたプリンをおやつに食べて、家の防音の練習部屋で練習…。メンバーが集まれる時はLINKSスタジオに行って練習。 練習はルーティンになってるから休みの日でもしますね。 夕方のお散歩行きながら買い物して、一緒に夜ご飯作ったり…。 お酒飲みながらのんびり夜ご飯食べて、ヴァイオリン弾いたり、ドイツの家族とテレビ電話したり…あとはお風呂入って寝ます。 もちろん一緒に…!って…恥ずかしいからここはカットして下さいね!(苦笑) …わりと普通でしょー?(苦笑) でもとっても幸せですっ!」 紅葉は笑顔でインタビューに答えたのだった。 END

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