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第223話(6月)(3)※微R18

竜之介も帰宅し、2人きりになった凪と紅葉はのんびりソファーで寛ぎながらタブレットを眺めている。 「あー…、バナナと焼酎だって。 蜜の材料。」 凪が検索してくれたカブトムシ用の蜜の作り方に興味津々の紅葉。 「へぇー!バナナが好きなんだー! お酒も向こうで買えるよね?」 「大丈夫。 酒の仕入れ担当誠一だし、最近焼酎飲むって言ってたから絶対あるだろ…(笑) ってかさ…、多分だけど…そもそも時期がまだ早くねぇ?」 「え?」 「カブトムシ…。 向こうはまだ肌寒いくらいだと…(苦笑)」 凪の指摘に驚いた表情を見せる紅葉。 もうすっかり捕まえる気でいるようだが、合宿先は北関東。 夏はまだ先だろう。 「えー?そんなっ! まだかなぁ…? え…じゃあ…何か捕れるかなー?」 「どーかな? カブトムシなら夏になったらうちの実家の辺りでも捕れるよ。」 「ほんと? …んっ。ぇ…?ん…っ! 凪…? 今?! ま、まだ献立も考えてる途中だよー?」 隣に座っている凪からの突然のキスに焦る紅葉。タブレットに夢中で気付いていなかったが、先程から凪から構えという意味で髪を撫でられていたり、熱い視線を向けられていたようだ。 凪は紅葉を抱えるように肩に腕を回し、タブレットのメモを覗き込む。 「…どれ? コロッケ、肉じゃが、カレー、焼きそば…焼き肉、唐揚げ、ポテサラ…? …じゃがいもと肉率高っ…(苦笑) あとは?なんか食べたいとかみんなで盛り上がれそうなやつある?」 「んー…あ!スイカ割り、花火、バーベキュー…! あとね!誠一くんのお誕生会やりたい!」 「お、いーね!ってか夏休みだな(笑) じゃあ…まぁ残りはあとで考えようか…。」 そう言うと凪はタブレットを目の前のローテーブルに置いた。 「…お散歩は…?」 「もうちょい涼しくなってから…、ってことで。」 紅葉をソファーに押し倒す凪は楽しそうだ。 「アッ…! んん…、待って…!汗かいてるから…! 凪…っ!するならシャワー…してから…っ! ん、ダメ…!」 「どーせベタベタになるけど…?(苦笑) …分かった。じゃあ風呂でしようか?」 「え…?ベッド……」 紅葉が提案すると凪は何故かピシャリと敬語で応える。 「ベッドは夜です。」 「…んんー? 夜も…ってこと?」 「…え、…ダメ…? 因みに合宿中どーなの? 風呂別で入るならイチャイチャもお預けな感じ…?(苦笑)」 「っ!え、それは……やだー。 でも…恥ずかしいし…えっと… ……っ! ん…んっ、は…ぁ…なぎ…!」 紅葉が迷っている間に凪は服の裾から手を入れ始めていた。 紅葉が言う程汗など気にならず、素肌に触れながらキスをしているとテーブルに置いたスマホが振動していることに気付く。紅葉のスマホのようだ。 「あ……っ、電話…っ!」 「…後で良くない?」 いつもならそうするので、凪は紅葉の腰を抱き首筋へ口付ける。 「んっ! 待って凪…っ! なんか、出た方がいい気がするっ…!」 そう言われるとピタリと止めて長い腕を伸ばしてスマホを取り、紅葉に手渡す凪。 こんな時、決して不機嫌にならないのが凪の良いところだ。 「……。ん。」 「ありがと…っ。 …もしもし? みなちゃん? …どーしたの? うん…。 ……いいよ!大丈夫! 何時?……了解ー! …みなちゃん大丈夫?何かいる?」 電話はメンバーで紅葉のイトコでもあるみなからだった。 「何かあった?」 慌てた様子だった紅葉に凪が聞くと、どうやらみなの体調が悪いらしく、愛樹の保育園へのお迎え依頼だった。 「ごめんね、ちょっと僕行ってくる…。 えっとー…、とりあえずうちに連れてくる!」 紅葉は凪に謝るとパっと切り替えて身支度を始める。 「…待て。 まだ外暑いから車出す。 チャイルドシート紅葉の車だっけ? ってか、今夜のネット配信の仕事…」 「っ!みなちゃんと凪くんの予定だったよね?」 「…あー…、うん。光輝に確認してみる。」 そこからはもうバタバタで…2人でイチャイチャするはずが、凪はスケジュールの確認に追われ、紅葉も愛樹の相手で手一杯だった。 「わんーっ! こっちー! …きゃー!」 平九郎と梅がよき遊び相手になってくれているが、元気いっぱいの愛樹は目が離せず疲れを知らないようだ。 その後…2人の夕食はデリバリーになり、愛樹は凪特製のチャーハンとスープ、デザートの桃まで平らげるとやっと寝落ちしてくれた。 しかしそこから仕事へ出た凪が深夜に帰宅するとすっかり覚醒した愛樹が防音部屋でキーボードを弾いていた。 付き添う紅葉は眠そうに疲れた顔をしている。 「あ、お帰りなさいー。 お疲れ様ー!」 「ただいま。 …あのまま寝るのかと思ったら…起きたの?」 「すごい泣いちゃって…とりあえずここに来たんだけど…。 エアコン効くまでに汗だくになったからもう一回お風呂入れなきゃだよ…(苦笑)」 「…俺入れるよ。紅葉もお疲れ。 ハハ…っ、スゲー楽しそうだな。 愛樹ー? 眠くないのか?」 凪の問い掛けも聞こえないほど集中している愛樹はずっと床に置かれたキーボードを奏でている(まだ弾けないので遊んでいるだけ) 「なぁ…愛樹も音が分かるのか…?」 絶対音感の才能が受け継がれているのかと訊ねる凪に紅葉は少し悩んで答えた。 「んー…どうかな? 多分…分かってる…?気がする。 だってもう…2時間…。」 「え?…は?うそだろ? ずっと弾いてんのっ?!(苦笑)」 「そうだよー。止めさせようとすると…」 紅葉が愛樹を後ろから抱えてキーボードから離すと… 「っ!いやーっ!」 声量も母親(みな)に似たのだろうかと思う声で抗議する愛樹。 「……なるほど。 さすがあの2人の子だな…(苦笑)」 音楽への集中力と執着力が半端ないのは両親から見事に受け継がれているようだ。 結局、泣く愛樹をなんとかお風呂に入れ、寝てくれたのは深夜3時前… 凪も紅葉もクタクタで倒れ込むようにベッドに入る。 「なぎ…っ」 紅葉が手を伸ばして凪を見つめるが… 「あー……さすがにもう寝よ…(苦笑)」 今からだと明日の移動に支障をきたすし、今夜は愛樹もいる…。 さすがに諦めて寝ようと告げる凪に頷く紅葉。 「うん…そうだね。 あ…キスだけ…っ!」 「ん。 お休み紅葉。」 「おやすみ、なさい…」 翌朝… 「ぅ…重……っ!」 思わずそう呟いた凪が目を覚ますと胸の上に愛樹が、腹部に紅葉が乗っていた。 重いはずだ。 「…いやいや……なんでお前たち寝相シンクロしてんの…(苦笑)」 寝顔も似ている2人に、起きた瞬間から笑い、癒される凪だった。

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