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第225話(6月)(5) ※微R18
そこへ誠一と彼に抱っこされた愛樹がやってきた。
寝起きでご機嫌ナナメのようだ。
小さな手でギュッと握られた誠一のブランド物のシャツはくしゃくしゃで涙とよだれでベタベタになっているが全く気にした様子もなく、「ギターの音がするねー!」と、優しく愛樹に話かけながらスタジオ内を歩いて行く。
若手メンバーは驚きの声をあげる。
「えっ?!こども?」
「誰の子…?誠一さん…じゃないよな?
あ!…社長んとこの…?
多分そうだ。そっくり……!」
「美人!」
「紅葉くんごめんー。今いい?
愛樹ちゃんがお腹すいたみたいなんだけど、時間的に何食べさせたらいいかと思って…」
「あんちゃん!起きたんだね。おはよー。
誠一くんみててくれてありがとうー!
そうだね。…凪、そろそろ終わるかな?
何があるか聞いてみるね。」
ちょうどスタジオを出たところで凪と会い、愛樹と共に駆け寄る紅葉。
誠一はLIT Jメンバーと話に行った。
「紅葉…タオルありがと。
愛樹、パンケーキ食べるか?冷凍のだけど…さっき竜之介にいろいろ買い足してきてもらったからさ。」
同じ年頃の娘をもつ竜之介は子供用の食材や食器類まで揃えてきてくれた。
「あ、いいな。僕も食べたい。
凪…タオル貸して?」
手を伸ばす紅葉。
凪の物を身につけていると落ち着くのだ。
「え、汗拭いたけど?あ…いいんだ?(笑)
とりあえず一回戻ろ。紅葉、愛樹抱っこしとくからヴァイオリン持っておいで。」
「はーい。」
「誠一、俺ら一回戻る。」
「…了解。光輝、夜までに来るって。
で、ミーティング。紅葉くんにも伝えて?」
「OK…!」
紅葉が凪から離れると、先程少し話したスイが声をかけてきた。
「人の子まで巻き込んで家族ごっこ?」
紅葉はその言葉に驚きつつも、冷静にヴァイオリンケースを確認し、立ち上がる。
首にかけたタオルをギュっと握る。
「……ごっこ、じゃなくて…大事な家族だと思ってるよ。」
笑顔で応え、凪の元へ戻ると大きな背中にぴたりとくっついた。
棘のある言葉を向けられることにも強くなってきている紅葉…それでも、傷付かないわけではない。
ドイツの実家でも養子の弟たちに対してずっと陰で言われてきた言葉に悲しい気持ちを思い出していた。
「紅葉…?
どうした?大丈夫?」
紅葉の異変に気付きながらも、愛樹を抱えた凪は動けずにいた。
そこへ今さっき紅葉へ絡んでいたスイが笑顔で話しかけてきた。
「愛樹ちゃん?っていうんですか?
可愛いなー。
そのサンダルも可愛いですね。
俺の姪っ子もそのブランドの靴持ってますよ!」
その目の奥が笑ってなくて、紅葉は顔を強張らせた。凪は男女問わずモテる。スイの声色に心配で一気にハラハラした気持ちが押し寄せた。
「だろ?
…実はバタバタしてて靴を忘れてさ(笑)
来る途中で買ってきた。
靴だけのつもりが結局服もオモチャも買って…。(苦笑)」
「凪さん…社長(光輝)並みに貢いでるじゃないですか(笑)」
コタもフォローに現れて、凪は普通に話している。
「愛樹、こんにちはって出来る?」
「…わんわんっ!」
「えっ?(笑)」
「意外でしたけど、凪くんってこども好きなんですね。自分の子じゃなくても可愛いもんですか??せっかく来たなら子守りより遊びたい感じかと思ってました…!」
「わんわんっ!わんわんっ!」
「愛樹…この人はわんわんじゃないから(笑)」
指指さない…と愛樹を諭す凪。
「あ、俺?(笑)
コタでーす。こんにちは。」
「きゃはは…っ!」
コタを見た愛樹が何故かわんわんと言い続けて笑っている…。
「コタ、犬認定されてるよ?(笑)」
「え、スイ…マジで?なんでー?(苦笑)」
「なんかごめん…(苦笑)
別に…遊びにってか、合宿に来てるわけだし…。
集中するには良い環境だよな。
…あー…、愛樹のことはそりゃあ可愛いよ。
生まれた時から見てるし…今も光輝たちの代わりに責任もって預かってる。
愛樹って寝てる時と食べてる時の顔が紅葉にそっくりでさ(笑)見てて癒されるんだよ。
こうやって俺が愛樹ばっかり構ってると羨ましそうにこっそり見てきたり、こうやってくっついてくる紅葉も見られるし?」
そう告げると振り向いて紅葉の髪にキスを落とす凪。
「っ!凪…っ!
もう……!……!」
「あー…さっき途中で寝落ちたから足んない…。」
肩に顔を埋めてそう告げる凪に驚きの声をあげながらも、紅葉は凪と目を合わせるとそっと唇を合わせた。
ちょっとだけスイへの牽制の意味も込めて…。
「……は、はは…。」
「うぉ…っ!…!」
後輩とこどもの前で普通にキスを交わす彼らを前にスイもコタもさすがに言葉がないようだ。
「っ!めーっ!」
「あ?…痛っ!(苦笑)」
突然腕の中の愛樹が暴れ、引っ掛かれた凪。
落とさないよう抱え直すのを慌てた紅葉が支える。
「うぅー、もーちゃん!」
「わ…!どうしたの?抱っこ?
凪…大丈夫?」
「平気…。うわー…ヤキモチじゃん?(苦笑)」
「なー!めーっ!」
「……ほら。なんか怒ってる…俺に(苦笑)」
「えー?(笑)そうかな?
お腹すいただけかも?」
「…とりあえず早くパンケーキ食わせよう。」
凪から愛樹を受け取った紅葉は代わりにヴァイオリンケースを渡し、仲良くLINKS棟へ向かった。
一方…
「完全脈無しじゃん?」
「はぁ…。そーかも。
あーあ…。合宿つまんない。
ってか、コタ、お前もだし。」
「…俺は紅葉くんは推しって感じだから別に…。
狙ってたって感じじゃねーのよ。
とりあえず…フラれた者同士でヤっとく?」
「……。なんで?え、今更コタと?(苦笑)
ないって!中学生からの仲だよー?
ってか俺ら大部屋だし、さすがにやだよ…!」
「…スイ、ちょっと向こう行こ?」
「えっ?」
「いーから、行こ?」
「えー?やだやだっ、無理だし!」
幼馴染みでバンドメンバーというコタとスイの関係もこの合宿で変わるのか…?
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