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第231話(6月)(11)※微R18
「あー…朝、だな…。」
「うん…。
ん…っ、おにぎり美味し…!」
一晩中スタジオで音合わせをして、気がついたら夜が明けていた。
降り続いていた雨も止んで今朝は快晴。
2人は寝ずに愛犬の散歩に出て、約束の高台でボーっとしながら朝食中だ。
因みに昨夜、文字通り叩き起こされた誠一は録音された曲を聴いて絶句し、何度も曲を聴きながら凪と合わせ、紅葉曰くキラキラした音を入れてくれた。
そして気絶するように眠っている。
凪も、普段とはまた違う優しいドラムを叩いてくれた。
ちゃんとした録音ではないけど、光輝にデータを送って、電話で起こして確認してもらっている。
さすがの凪も昨日のLIT Jの練習から続けてほぼ丸1日ドラムを叩き続けたので疲れを感じているし、紅葉も心身共にクタクタなのだが、やりきった達成感からか興奮からか逆に眠れなくて、テンション高く笑い合う。
「すげー頑張ったから…今日は紅葉の好きな物作るか…!何がいい?」
「やったー!
えっとね…、唐揚げと…肉じゃが!」
凪は予想通りの答えに笑いながら、紅葉の耳元で囁いた。
「いーよ(笑)
なぁ紅葉…部屋戻ったら…しよー。」
「っ?!
凪…、眠くないの…?(苦笑)
疲れたでしょ?
ご飯食べたし、すぐ眠くなっちゃうかもしれないよ?」
「いや…疲れはしたけど、なんか興奮してるっーか…(笑)
そーいえば…すげー口説かれたし、昨夜。
あんな曲聴かされたらヤバい。」
「…ぅ…っ!
あ…、でもゴム…とか…、もうないし…!
あと…朝だし……!」
頬を赤くしながら喋る紅葉。
嫌という訳ではなさそうな反応だ。
「…それね、…大丈夫、あるよ。
よし…!
俺もう2~3周走ってから行くから、その間に考えて?あとついでに水買っておいてー。」
「…え、…分かった。
もう少し歩きながら自販機のとこで待ってるね?
行こ、平ちゃん梅ちゃん。」
疲れたという割に階段を駆け上がる凪に元気だなぁと思いつつ、紅葉は散歩を続ける。
「ふぁ…、眠……っ」
お腹が満たされたせいか急激に眠気が襲ってきて、これはやっぱりベッドに入った途端に寝ちゃうだろうなぁと苦笑する紅葉。
曲を作っている時はあんなに不安定だった気持ちも、随分落ち着いてきた。
両親にはもう逢えないけど、自分には凪がいる。
誠一も、みなも、光輝も大事な存在だ。
大丈夫…。
紅葉は一人言を呟きながらゆっくりと小道を歩く。
「大切な人たちと音楽を出来ることが当たり前じゃないってこと…みんなももっと意識したらきっと自分の音楽に向き合う姿勢もバンドの音も代わるのに、でも…、みんなにツライ思いをして欲しいわけじゃないし…。
そこを伝えるのは難しいよね…。
っ…お、わっ!
どーしたの?梅ちゃん…っ!
そっちは道がドロドロだから……!
遠回りしよ?
わわ…っ!」
紅平九郎も梅も普段絶対にリードを引っ張ることなどないのだが、急に梅が泥でぐちゃぐちゃの道を一直線に進み始めた。
「待って…!梅ちゃん…!
…そっちに何かあるの?」
ぐいぐいとリードを引っ張りながら、紅葉を振り返り導く梅。
足やお腹に泥が跳ねてもお構い無しだ。
紅葉は泥に足を取られ躓きながら、身体が濡れるのがそんなに好きではない平九郎も戸惑いながらもなんとか付いていく。
行こうとしていた自販機へ最短ルートで辿りつくと、梅はピタリと止まり、ほっとした紅葉の前に座り込む人影が見えた。
「っ?!
大丈夫、ですか?!」
具合が悪そうに見えて、慌てた紅葉が声をかけると、苦しそうに顔をあげたのはスイだった。
「スイくん!
どーしたのっ?!
大丈夫?」
「……平気。」
突然現れた紅葉と2頭の大型犬に驚きながらも立ち上がろうとするスイはふらつく…。
「危な…っ!」
慌てて彼を支えた紅葉はその身体が熱いことに気付く。顔色も悪い…。
「スイくん…!熱があるよ…!
寝てないと…!」
「…分かってる…!
スポドリ買いに来ただけだから…!」
ふらふらと小銭を投入しようとするスイを紅葉が手伝う。
「…っ!
んだよ…っ!ほっとけよ…!」
苛ついたように声をあげたスイの手からペットボトルが転がり落ちる。
「…そんなことっ、出来ないよ…っ!」
紅葉が少し大きな声でそう言い返すと、スイは力なく再び座り込んだ。
「ありがと、平ちゃん…
イイコだね。」
紅葉は平九郎からスポドリを受け取り、封を開けて渡してスイに飲ませる。
「僕のこと嫌いなのかもしれないけど…
でも、今は言うこと聞いてもらうからね!」
「…っ!」
紅葉はビシっ…と、スイに告げた。
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