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第234話(6月)(14)
翌日…(フェス出演をかけた選考日)
「あ、おはよう。
熱下がった?大丈夫そう?」
「っ!はい…。」
スイが部屋を出ると誠一が声をかけた。
ドアを開けっぱなしにしてPC作業をしていたようで、もしかしたら自分を待っていてくれたのかもと、憧れのギタリストを前に緊張するスイ。
「じゃあ行こうか…。
とりあえずギターと貴重品だけ持って?」
「はい。」
2人が向かったのはスタジオ棟で、誠一はスイにバンド練習の前に紅葉の演奏発表を見るように言った。
「えっ?!
あの人…一人で選考出るんですか?!」
「そう。紅葉くんのヴァイオリン…生演奏聴いたことある?一回見といた方がいいよー。
っていうか、あとで紅葉くんに会ったらお礼言いなね?
君…昨夜熱が上がって、紅葉くんがオーナーさんに氷枕借りに行ったり、飲み物とか薬飲ませたり、服の洗濯もしてたし。
何回も様子見に行ってたよー。」
「え…っ?」
言われてみれば時々誰かの気配があったような気がする…。重かった身体はスッキリしている。
選考の責任者は光輝、審査員はLIT Jのメンバー。凪と誠一も同席するが紅葉が出ることになり公平性を期すため決定権はない。
動画を撮って選考後に主催者に送る。
光輝はよっぽどのことがなければ公認、推薦するつもりらしいが、この合宿で各バンドの上達やまとまりをちゃんと見たいとこの機会を設けたようだ。
「お待たせ。
あれ? …何かサスケくんたち疲れてない?
飲み過ぎ?」
誠一がスタジオに入ると、テーブルに伏せながらぐったりしているギタリスト仲間がいた。
「いや、童心に返って遊び過ぎてさ…。」
「ヤバいよ…。疲れ取れない。」
「…はは…!」
この人たち大丈夫かな…と心配しながらも光輝が進行する。
「じゃあ紅葉から…。」
「宜しくお願いします!」
スピーカーでドラム、ベース、ギターの音を録音したもの(昨日録り直した)を流しながらヴァイオリンを奏でる紅葉。
一音を乗せた瞬間、ハッとするようにその場の空気が変わった。
「っ!」
スイも驚きを隠せず、固まったまま紅葉から目が離せなくなっていた。
「はい…、お疲れ様。」
録画終了を確認した光輝が声をかける。
LIT Jメンバーから質問が飛ぶ。
「…これ、スタジオで寝てた時の曲?」
「うん、そうです!」
「なんかスゲーね…。
前にうちらのLIVEの打ち上げで弾いてくれたやつの豪華版?みたいな。」
「あぁ…。これ原曲お前?」
Aoiの質問に紅葉は汗を拭いながら答える。
「原曲って言われると…みなちゃん…」
「なるほど…。」
「難しいなー。めちゃくちゃすごいんだけど、触れたことないジャンルだからどう評価したらいーのか悩む。
あと、フェスに出すのはいーと思うけど、これ一曲だもんね?その辺主催者さんがどうかな?」
「そうだな。
これは…今みたいに一人でヴァイオリン弾く感じ?
例えば…野外じゃん?
雨降っても大丈夫そ?」
疲れてるわりにちゃんと疑問点を上げてくれるサスケとゆーじ。
「っ!
か…っ、考えて、なかった……!」
「わーぉ!(苦笑)」
「…とりあえず保留で。」
「いいもん見せてくれてありがとー。」
少ししょんぼりする紅葉を凪と誠一が労う。
「大丈夫。このまま眠らせるのは勿体無いから何らかの形で世に出そう。」
「うん…。
…スイくん!
良かった!元気になったの?
これから練習?スイくんも頑張ってね!」
「こんなのっ、こんな…!バンドじゃなくて一人でもこんなにすごいの聴かされて…!
いくら頑張っても全然敵わないじゃん…!
無理…っ!」
「…はぁ…。
あのさ。こいつと、一緒にこの曲創りだしたやつは天才なの。音楽には才能も必要なだけ…。
天才が全力で努力して、必死で練習してこの曲!俺ら凡人は結果を求める前に死ぬほど努力して死ぬほど練習するしかねーの。」
「…っ!」
「葵くん、僕別に天才じゃないよ…。
いろんな人に支えてもらって、たくさん助けてもらって出来た曲だよ。
スイくんも素敵なバンドがあるんだから、メンバーのみんなとカッコいい音楽を創ればいいんだよ。」
「っ!」
「…お迎え来てるよ。」
紅葉の言葉にハッとし、誠一の声かけにスタジオの外を見ればコタを先頭にバンドメンバーが手を振ってくれていた。
メンバーに迷惑をかけた、コタとも気まずいしどうしよう、行きたくないと思っていたはずなのに彼らの姿を見た瞬間に胸が熱くなるスイ。
光輝がポンっと、スイの肩を叩く。
「…ギリギリまで待つから、しっかり練習しておいで。」
「はい…!」
結果…
合宿に参加していた2バンドとも合格点を貰えて主催者へ動画を送った結果、「まぁ出てもいいでしょう」という返信が来て、フェスへの出演が決まった。
「サブステージで1~2曲にはなるだろうけど、スケジュール組んでくれるそうです。」
「よっしゃー!」
「2バンドとも選曲と、練習をもっと頑張りましょう。
っていうかその前に一回パート練習の時間取って、LIT Jとうち(LINKS)のメンバーでみっちりやろうか。」
「…(あ、なんかヤバそう)…!」
光輝の発言に全員がここからが合宿の本番なのかもと察していた。
「紅葉の出演も前向きに検討してくれるって。」
「ホントっ?!やった!」
「ロックフェスだからね、途中でベースも弾く方向にするとか…、一人だし歌なしだと…パフォーマンスの仕方も考えないとね。」
「そっかー…。
ダンスとかする?
あ!なんなら僕歌うよ!」
「「「…それは止めておこうか(おけ)。」」」
「………。」
凪、光輝、誠一の声が重なり不満そうな表情を見せる紅葉だった。
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