227 / 229

第235話(6月)(15) ※微R18

(久々に更新させていただきます! またよろしくお願いします!) 光輝が合宿に戻り、全体をみるようになってから驚くほど合宿らしくなった。 各バンドに任せっきりだった練習も、パート練習や他のバンドの練習を見学する時間を儲けたり、バンド毎に課題曲を選んでコピーしたり、LIVEパフォーマンスの練習や全体ミーティング等… 個々に相談にも乗るし、もちろん技術的なアドバイスも的確だ。若いメンバーたちは厳しいけど、優しい光輝へ信頼を寄せていく。 休憩時間以外は音楽漬けのハードスケジュールだが、最初は文句を言いつつダラけていた後輩たちの顔付きもいつの間にか真剣にものになっていった。 そして後輩に負けていられないとLIT Jのメンバーも練習に熱が入る。 皆、単純に音楽が好きなのだ。 好きなことに夢中になり、毎日何かしら成長していく…。それはほんの少しの前進だけど、音楽を始めたばかりの懐かしい感覚が心地良いのだ。 紅葉は作曲モードに入り、音楽に集中している。マツから借りた5弦ベースにも夢中になりずーっと探究していたし、もちろんヴァイオリンの練習も欠かさない。 合宿明けはモデルの仕事が入っているので、日焼け対策や体調管理にも気をつけている。 生活時間帯がバラバラだが、夕食だけはみんな揃ってがルール。 紅葉は偏食で少食のスイに食事を与え、食後はわざと眠くなる曲を奏でて安眠を守り、お手頃価格だけどモデル友達オススメのボディクリームやヘアトリートメントで外見も磨いた。 「随分顔色が良くなったね。」 愛樹を寝かし付け終えた光輝がソファーで眠るスイの寝顔を見て告げた。 「ホント。 ご飯も食べるようになったし、良かったね。」 不摂生代表のような生活をしている誠一も心配していたようだ。 「でしょ? 凪のご飯美味しいもんねー! ふふ…っ!」 紅葉に麦茶を渡しながら凪も続く。 「ってか、随分懐いたよなー」 あれだけトゲトゲしかったスイは、穏やかな表情で眠っている。起きてる時はほとんど紅葉に引っ付いているくらい、慕ってくれているようだ。時々コタがその様子をハラハラしながら見ている。 凪はそれを不思議と疎ましく思うことなく見守っている。 「なんか小さい頃のアッシュ(弟、とんでもなくヤンチャだった)みたいで可愛いよー」 「そうか? まぁ、口はアッシュより大人しいよなぁー?」 信頼しているというのは大前提で、紅葉がスイに向ける感情が家族への愛情と同等だと分かっているし、正しくそれがスイが求めているものだからだ。 "大丈夫だよ" 事ある毎に紅葉がスイに伝えていた魔法の言葉だ。昔、アッシュにも何万回も伝え続けた。紅葉も幼い時に与えられた。 特に祖母の腕の中で聞いた"大丈夫よ"という優しい声は今も忘れていない。 「凪さん、片付け終わりました。」 食器を洗い、キッチンの片付けまで終えたコタたちから声を掛けられた凪は少し嬉しそうな顔を見せる。 「おー、お疲れ。 よし…! じゃあトレーニング行くやつ…5分後に集合な?」 「…はい。」 合宿の始まった頃は夕食時に好き勝手に飲めていたアルコールも、このトレーニングが終わってからでないと提供されなくなった。 凪主催のトレーニングは屋内での筋トレ+体幹トレーニング+ロッジ周辺の走り込みだ。 中でも見晴らし台まで続く階段は150段ほどあり、ここを一気に駆け上がるトレーニングは地獄の中の地獄だと後輩たちから呼ばれている。 「し、しんど…っ!」 「ほら、あとひと息ー! おいコタ!置いてくぞー?」 「ッス!」 「も…っ、無理っ!」 息の上がった後輩たちはなんとか頂上に辿り着くとそのまま地面に倒れ込む。 「水飲んだらちゃんとダウンしとけよー。 あー、暑…っ!」 ストレッチをしながらウエイトを外す凪を見て怯える後輩たち。 「え、あの人ヤバい… 朝もこれやってるらしいけど…なんであんな生き生きしてる?」 「…ってか、ウエイト付けてあの速さなのっ?!」 「筋トレもさー。イチャイチャしてるだけかと思ったら背中に紅葉くん乗せて腕立てしてるし…」 「そーいえば体脂肪率聞いたら9%とか言ってたな…」 「「「人間じゃない…!」」」 合宿最終日の夜 バタバタと片付けと荷造りに追われる後輩たち。 平九郎と梅を誠一と光輝に託し、凪と紅葉はロッジのオーナーさんから教えてもらった貸し切り温泉にきていた。 ピチャン…と、軟らかな湯を肌にかけて嬉しそうな紅葉。 「気持ちいいー」 この辺りは夏でも夜は少し涼しく、自然を眺めながら入る温泉は心地よかった。 「なぎー 連れてきてくれてありがとう! お肌すべすべで撮影行けるっ!」 「はは…っ …こっち来たら?」 夏場に風呂は暑いと言いつつも、久しぶりにゆっくり2人きりで過ごす時間に凪もご機嫌だ。 「あ…でも…っ! くっつくと…したくなっちゃう、から…っ!」 「…そっか…(笑) とりあえず帰って、撮影終わったらだなぁー… 俺もLIT JのLIVEあるし…」 「うん…。」 「…まぁ…キスくらいはいーよな?」 「ん…っ! ふ…は…ぁ…」 ちょっと長めに口付けたあと、紅葉の頬が紅く見えたのは温泉のせいだけではなさそうだ。 「あ……(苦笑)」 「も…っ!ばか…っ!」 「だって照れてるわりに見すぎだし。 ごめんって。…平気?」 「…ん。大丈夫…! 凪、筋トレ頑張ってたでしょ? だからつい…ホントは…! …ホントはその腹筋触りたいけど…我慢してる!」 勢いのついた早口でそう告げられた凪はツボに入ったのか珍しく声をあげて笑っていた。 「はぁー面白っ! じゃあもうちょい鍛えとくかー。 ってか、紅葉も少し腹筋ついたんじゃね?」 確かめるようにスッと伸びた凪の手が紅葉の腹部を撫でる。 凪とは違ってストレッチ程度だが、一緒にトレーニングしていたので、多少なりとも成果はあったはずだ。 「そう?見た目で分かるくらいに…もっとカッコ良く!硬い腹筋になりたい…っ!」 「…あ? 誰かに見せんの?ダメだけど?」 撮影でも露出度の高い服は(凪からの)NGで、以前脇腹がチラりと写った写真が雑誌に載った時はめちゃくちゃ機嫌が悪かったのだ。 腰に回った右手でグイっと身を寄せられ、左手で顎を捕らえられてもう一度キスされた。 「鍛えるのはいいけど、着替えとか以外で見せるのはなしな?分かった?」 「っ!はぁい。」

ともだちにシェアしよう!