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第236話(6月)(16)※微R18

合宿を終えて東京の自宅へ戻った2人は体調の優れないみなのお見舞いに行ったり、愛樹の子守りや保育園のお迎えをしたり、LINKSの今後についての打ち合わせや個々の仕事…と、忙しさに追われていた。 自宅に戻ったら誰にも邪魔されずに2人で仲良く過ごす気でいたのだが… 実は合宿から戻ったらスイの住むボロアパートは階段が崩れたとかで住めなくなってしまったらしい。とんだ不運だが、合宿で必要なものはほとんど持ち出していたので被害は最小限で済んだようだ。 しばらくメンバーや友人宅を転々としていたスイを見かねた紅葉が連れ帰ってきて、数日前から居候中なのだ。 そして合宿でガッツリ胃袋を掴まれた後輩たちが頻繁に凪のご飯を食べにくるので、賑やかなのは良いのだが落ち着かなかった。 そして凪は料理に忙しい。 「凪さーん!これめっちゃ旨いっス! おかわりってまだありますかー?」 「…あるよ。取りに来い。」 「マジ旨…っ!俺もうコンビニ飯食えない…。 あー、家帰んのダルいな…。 凪さんっ!今日また泊めて下さーいっ!」 「またー? これ以上居候は増やせません(苦笑)」 彼らはただご飯を食べにくるだけじゃなくて家事や愛犬の散歩も手伝ってくれるし、音楽の勉強や楽器の練習も一生懸命やるので邪険には出来ないが、いい加減2人きりになりたいのも本音。 時計を見た凪はそろそろ紅葉の撮影が終わる時間だと、後輩たちに帰宅を促す。 迎えに出る約束なのだ。 「…いや…、マジでさー、お前ら今日は飯食ったら帰れよ。」 「えぇー…?! いつでも来ていいって凪さんが言ったじゃないですかー!」 「…そりゃ…言ったけどっ! いーんだけどさ… 社交辞令的なとこもあるって分かる?(苦笑) はぁ…お前たちいたらイチャつけないし。」 「え…? 別に俺らいてもイチャついてますよね?(苦笑)」 「味見とか言ってキッチンでベタベタしてたり、後ろから紅葉くん抱えて爪切ったり、髪乾かしたり… ずっと言おうと思ってたけど…目のやり場に困りますっ!」 「………。」 後輩たちからの指摘に思わず黙り込む凪。 気をつけていても日常の習慣はそう変えられるものではないらしい。 「俺は大丈夫! 慣れてきたー。」 「…約束通り2階には上がらないですから…! 全然!あの……ヤッていいですよー?」 「どーぞっ!」 「アホか…っ!(笑)」 さすがに凪も気は進まないし、紅葉は絶対OKしないだろう。 「あー、ってかさ… 紅葉がヴァイオリンの仕事入ったの知ってるだろ?ちょっと集中して練習する時間必要だし、俺も仕事するからさー。」 ローディーの竜之介から鬼のようにLINEが入っていて、会話の合間に細かな指示を出す凪。 「…確かに…いつも俺たちの練習見てもらってるから紅葉くんも凪さんも練習する時間ないっスよね…!」 「また来週来ていいから。 誰かー、今日スイ泊めてやって? あれ?そーいえばコタは?」 いろいろあった2人だが、凪プロデュースのトレーニングで多少の根性が身に付いたコタにスイを託そうと思ったのだが、そういえば姿が見えない。 因みにあの地獄のトレーニングに食らい付いてきたのは凪のローディーである竜之介と問題児コタだった。 「バイトです。 みっちり入ってるからしばらく来れないって言ってました。」 「ってかあいつの家…寮なんで無理ッスよ。 コタの兄貴がホストクラブ経営してて、たまにバイト出る代わりに寮に住ませてもらってるらしい。」 「へぇー…。」 「俺の家も1Rだしなぁ…」 どうしたものかと相談しているところに誠一から電話があり、なんと「家でいいなら」と言ってくれたのだ。 「やっと一段落ついたから今日は僕が引き受けるよ。お酒以外ないけど、飲み足りない子たちも一緒に来ていいよ。」 スピーカー越しに聞こえた誠一からのお誘いにみんなが盛り上がる。 無類の酒好きである誠一は合宿地周辺のワインや地酒を買い漁っていて、後輩たちもそれを知っているようだ。 「…サンキュー…! ってか、お前もちゃんと寝てちゃんと食えよ?また倒れるぞ? なんか料理持たせるから!」 3日徹夜して丸1日寝るような生活をしてる誠一に釘を刺す凪。 「あはは。うん、ありがとう。 気をつけるー。 凪もゆっくり休んでね。」 休めるかは分からないが、通話を終えた凪は後輩たちを車に乗せてバイト終わりのスイを拾い誠一のマンションへ送り届け、紅葉を迎えに行った。 「え…っ?! スイくん追い出しちゃったの?」 「……そういうわけじゃないけど… 今日は誠一のとこで飲むんだって。 あ、みんなで。」 「急に決まったんだ? 大丈夫かな…?」 確かに急だしちょっと強引だったかと反省する凪だったが、良いタイミングでスイから紅葉にLINEが来た。 「…誠一くんのギター見せてもらってるって。良かった、楽しそうだよ。」 紅葉の声に安心する凪。 「紅葉ー…? あー…今日2人、だな……?」 含みを持たせて言葉を止める凪。 紅葉は意味を理解しつつ、ひと息置くとモデルのお手本のような笑顔でニコリと笑って答えた。 「…練習します。」 「ですよねぇ(苦笑)」 長引いた撮影で疲れた表情を見せていたはずが、帰宅後は防音室に籠ってめちゃくちゃ真面目に音楽に向き合う紅葉を横目に凪も溜まっていた作業を進める。 互いに集中していてあっという間に数時間が経っていた。愛犬たちはとっくに夢の中。 さすがにもう寝かせないとと、慌てて紅葉を風呂に入れる。撮影で多分ずっと立ちっぱなしだったであろう脚をマッサージしてやると「あー…きもちいー…」と色っぽい声が聞こえたはずが、そのままウトウトしていて慌てた。 ベッドに入ると腕の中には堪らなく愛しい安心感…。額にキスを送り、おやすみを伝えるのと同時に凪も目蓋を閉じた。

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