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第8話
国民には賊が侵入し二人を殺したと説明し、喪に服させた。神託を受けこの国を救った少年に続き、偉大な息子とその妻までもと、国民は深く嘆き悲しんだ。
だが、王宮の中はそうではない。王が少年への愛故に乱心し、側室の一人と実子を──しかもアスティン王子とその側近を殺したという話は直ぐに広まった。
これで、モモを連れて逃げ出そうとする輩はいなくなった。モモに少しでも関われば、否、モモを手放せとエイダンに提言しようものなら、たとえ妻であっても子どもたちであっても王に手打ちにされる。
誰も王には逆らえない。エイダンは満足していた。
ジェーンとアスティンの喪が明けた後、王宮の運営はこれまで通りつつがなく行われていた。モモさえ王から奪おうとしなければ、エイダンの王としての執務も妻たちや子どもたちへの態度もこれまで通りだ。王が修羅と化すのはモモに関してだけだ。
張り詰めた糸を、切ろうとするものは誰もいなかった。
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「ごめんなさい……ごめ……」
ごめんなさい、と謝罪を繰り返し涙を流すモモに、やめろと命ずる。しかしモモは虚ろな目で同じ言葉を繰り返すばかりだ。もうその目はエイダンさえ見ていない。エイダンを見て、笑ってもくれない。
ジェーンとアスティンをモモの目の前で殺したその瞬間から、モモは壊れてしまった。
エイダンは沸き上がる熱情のままモモをベッドに縫い付け、覆い被さった。
今日は衝動のまま組み敷くのではなく、真綿でくるむように丁寧に優しく、華奢な体の緊張がほぐれるまでキスの雨を降らせるのだと心に誓っていたが、そんな誓いなど綺麗さっぱり脳裏からはじき出していた。
モモはエイダンを視界から外すように目を瞑り、シーツに顔を押し付けた。エイダンの存在を消し去ろうとするモモの姿に抑えが効かなくなる。
上がる苦悶の声を無視し、血が浮き出る程に強く仰け反らせた首の喉仏に噛み付く。エイダンに身を委ねようとしないモモを喰らってしまえと、自分の細胞の全てがモモを求めて痺れる。つんと口内に広がる鉄の味すら甘いと感じる。常軌を逸脱していた。
これほどまでの想いを持てる自分に笑ってしまいそうになる。エイダン自身でさえコントロールすることが出来ないそれをモモはその細い体一つで受け止めているのだ。
苦しい、辛い、哀しいと。小さな体全てでモモは、エイダンに訴えかけていた。
わかっている。わかっているけれども、止められない。いい大人が15歳の子ども相手に何をしているのかと誰に叱責を受けても、だ。
苦しいと思う権利は自分にはない。モモを苦しめているのはエイダンだ。しかし、モモに受け入れて貰えないつらさに、胸が押し潰されそうに痛むのもまた事実だった。
この少年を喰らうことはエイダンにとっての本能だった。それが、モモの心をさらにエイダンから引き離し、ずたずたに切り裂くことだとわかっていても、だ。
エイダンは、いくら王であろうとも人間だ。何人たりとも本能に抗うことはできない。他人を置き去りにしてでも、自身の欲を満たすために奔走する。
半ば自棄になって、モモの服を脱がしていく。ほとんど反応を示さなくなっていたモモが唯一反応らしい反応を示すのが、情事の時だ。過ぎる快楽に喘ぐモモ。例えそれが生理的な現象だったとしても、モモがエイダンの手や穿ちに反応を返してくるのが嬉しくて、エイダンはモモを貪ることを止められないでいた。
「やぁ、ひゃ……ぁ、ああ……」
モモの心地よい悲鳴を聞きながら、頭をうずめた下腹部にむしゃぶりつく。窄まった入口に指を突き入れ抜き差しを繰り返すたびに、柔い陰茎から甘い蜜がしとどに零れ口の中に染み込んでくる。これだけで喉の渇きを潤せそうだと思った。同性の男性器などしゃぶったことも咥えたこともなかったが、モモのであればなんであろうと舐めることが出来た。
「あっ……ぁああッ…ひ、ひ、あ……!」
モモの奥ははじめこそ狭まっていたものの、あっという間にエイダンの長い指を受け入れた。
舌全体でそそり起った幼い肉の茎に愛撫を施し、濡れた内部をかき回せば細い背がしなる。激しい水音を立てて震える肉芯をじゅうと啜れば、モモは目を剝いて腰をガクガクと震わせた。強烈な快楽に思考がはじけ飛び、わけがわからなくなっている状態のモモにほくそ笑む。
「あ、あぅっ……いやぁあ……あんっ」
モモの胸先の二つの突起も、さんざん吸って噛みついたので今ではもうぷっくりと起ち上がっていた。あれほどまでに淡い色をしていたそれは熟れた果物のように赤く色づき、与えられる快感に触れてもいないのにひくひくと震えている。
モモの体は、もうエイダンの匂いが染みつき、エイダンの色に染まり切っていた。それでもまだ、飢えは治まらない。
「も、……あぁあッ……も、いやぁ……っ」
ぶるぶると黒い髪を振り乱すモモを一瞥し、一際大きく吸い上げてやる。モモの両脚は満足に動かない、シーツを蹴ることすら出来ない。がちゃんとモモの拘束された手首が軋み、痙攣するようにモモの臀部が跳ね上がり、モモはあっけなくエイダンの口の中に吐精した。一滴残らず吸い上げてやり、やっと与えられた甘い体液で喉を潤す。
へたりとシーツに体重を預けたモモの瞳は、もうどろどろに濁っていた。抵抗もできぬまま敏感な場所を溶かされ続けて、息も絶え絶えといった様子だった。
「モモ」
「ふ……ぁあ……」
両手にすっぽりと収まる小さな臀部をさらりと撫で、太ももの付け根を今まで以上に大きく開脚させる。ぶらりと宙に浮かんだ足を肩に抱えあげた。
エイダンの指に掻き回されたそこは、ぱくぱくと開閉していた。膨張したエイダンの熱い滾りを、今か今かと待ちわびているかのように蠢いている。ごくりと喉が鳴る。押さえつけた震えるうち腿に吸い付き赤い痕を残してから、ひたりと膨張しきった先端を入口に宛がう。
モモの体を征服するこの瞬間、いつも胸が高鳴る。今からモモの中をエイダンでいっぱいに出来るという劣情に背筋が震える。何度味わっても、同じくらいにモモが──いや、貫けば貫くほどモモが欲しくなる。欲求に果てがない。
執務をこなしている時であっても、いつも頭の中はモモの事ばかりだ。
この黒い瞳に、自分だけを映したい。この濡れた艶やかな黒色の髪を一本づつ舐めしゃぶりたい。この小さな体の奥の奥にまで熱い肉欲を叩きこんで、完膚亡きまでに食らい尽くしたい。
エイダンの欲望は狂気だ。モモが欲しくて欲しくて、いっそ痛すぎた。
子を産ませるために何人の側室を抱いていてもそれは変わらない。モモの体を想像しながら腰を振り、子種を注ぐ。モモが女でなくて本当によかった。女であればエイダンは側室の部屋を訪れることはなく、モモはきっと孕みっぱなしだっただろう。
モモが男であるからこそ、モモ以外の妻をこれまで通り娶り抱いていた。それが義務だからだ。そういえば一昨日、丁度1年前に嫁いできた側室の一人が妊娠した。エイダンにとって9人目の子だ。
「ァ……あ、あふ」
「モモ、力を抜け」
くちゅりと、入れやすいように高まった欲望の根本を支える。そして太い切っ先をずぶりと埋め込んだ。
「……や、ぁあ……ああ―――――ッ!」
モモが喉の骨が浮き出るほどに大きく仰け反った。痛々しい悲鳴を無視し、無理矢理に腰を進ませてゆく。ずんっと、押し開くように真上から腰を落とす。そもそも男を受け入れるためにできている器官ではない上、モモの腕ほどはあろう巨大な肉棒を狭い蕾に突き入れられる苦しみは相当のものなのだろう。はくはくと口を開閉させたモモの黒い瞳はこぼれんばかりに大きく見開かれている。それでも、そんな呆けた顔ですら心の底から愛らしいと思う。
ゆるゆると抜き差しを繰り返しながら、入口を慣らしていく。入れる時はキツいが、モモの中はエイダンに慣れていた。直ぐにほろこび、快楽を拾う。その証拠に、モモはエイダンに挿入された瞬間にまた果てた。薄い腹部に散ったばかりの冷たい体液を指で掬い、せわしなく上下する剥き出しの胸の頂きに、それを塗り込める。
「や……ァ……あッ…う」
モモの瞳から洪水のようにあふれ出る滴をあやすように舐めとりながら腰を揺すり始める。
「あっ、あ…ぁ……あン」
モモが喉をしならせる。限界まで折り曲げられた脚が、エイダンの動きに合わせて肩越しにゆらゆらと揺れる。
「モモ……」
モモは最初の頃に比べて、快楽を追うのが上手になった。
あんなに狭くてキツかった頃が嘘のように、今では従順にエイダンを受け入れ、簡単な愛撫をしてやればみっともなく喘ぎ、直ぐに勃起するようにもなった。
モモを囲い監禁し手足の自由を奪ってから1年。モモの体は変わった、エイダンが変えた。
変わらないのは、モモとエイダンの関係だけだった。
モモはエイダンを愛してくれない。
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