2 / 7
残された時間 02
ーーーーどうか、どうかお願いします。僕の何をあげてもいいから、色葉くんを助けてください。神様でも、悪魔でも、天使でも誰でもいい。この願いを叶えてください。
『ひーかーさーん!デートしよ!』
『光さん好きだよ。』
色葉くんから温もりがなくならないように、手を離すことなく握り続けていた。
僕はそのまま眠ってしまっていたが、ふと誰かの気配を感じて目を覚ました。はっと色葉くんの顔を見るとまだ眠っていた。まだ色葉くんには温もりがある。
それならば、誰がいるんだ?
ホラーは苦手ではない。よく色葉くんと観ていたし。だけれど何故か振り向けなかった。だから、僕は振り向かないで問いかけることにした。
「だ、れ……ですか。」
「誰でも良いだろう。お前は誰でもいいから其れを助けてくれと願った。俺にはそれが聞こえたから来たのだ。」
返ってきた声は不機嫌そうに低く、でもどこか優しさを含んでいる男性の声だった。
「そうですね。あなたは僕の願いを叶えてくれるんですか?」
「なんだ。怖がらないのか。」
“何か”は僕の怖がらなさに鼻で笑った。
怖がるわけがない。
確かに人間ではない“何か”ではあるだろうけれど、本当に色葉くんを助けてくれるなら誰でも良い。だから落ち着いていられる。
「怖がりませんよ。」
「それ程、其れを助けたいということか。」
「はい。」
「俺が何を求めてもか?」
「構いません。」
はっきりと答えると、“何か”は少し悩むように「うーん。」と唸り始めた。
暫く“何か”は悩み続け、どのくらい経ったかは分からないが、「これにするか。」と呟いたから、僕は深呼吸をして、“何か”の言葉を待った。
「俺が求めるのは、お前の視覚・聴覚・触覚・其れに関する記憶だ。まあ、俺も鬼ではない。その内の一つだけをお前に残そう。他の三つはお前から奪う。」
要求されたものは、重いような軽いようなよく分からないものに感じた。しかし、色葉くんの命がそれらより大事だと思える。
「其れは持って明日の日付が変わる頃までだろう。それまでに決めろ。決まったら心でも声に出してもいい。俺を呼べ。名はセキという。」
セキがそう言うと、スッと気配が消えた。
早いのかもしれないけど、視覚・聴覚・触覚・色葉くんに関する記憶……どれを残すかは既に決まっていた。
ともだちにシェアしよう!