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残された時間 04

 翌朝、面会可能の開始時間直ぐに色葉くんのところへ向かった。ちゃんと手紙も持って。  眠っている色葉くんの手を握って話しかける。 「おはよう、色葉くん。」 「……。」  相変わらず返事はない。それでも僕は話し掛ける。だって、この子の記憶がある状態で話せるのは今だけだから。 「僕ね、色葉くんと恋愛が出来て幸せだったよ。」 「……。」 「何もない僕を好きになってくれてありがとう。」 「……。」  本当に幸せだった。勿体なさすぎるほど幸せな時間だった。そんな時間で埋まった記憶が消えてしまうのは辛いけど、色葉くんが助かるのならば消えてしまってもいい。  そう思い込ませていても、消したくない。覚えていたい。 「でもね、まだ普通に過ごしていたかったよ。だって僕らまだ20代だよ?この生活が始まってまだ数ヶ月だよ……?まだ……きみと……っ、わらいあって、いたかった……っ!」  涙が流れ始める。一度流れてしまえばそれを止めることは出来なくて、次から次へと流れる。  『大人だから』『色葉くんが大切だから』と頭では分かっていても、受け入れたくない。セキに要求された三つを失うなんて嫌だ。  記憶がなくなるから、色葉くんの声も、僕を触ってくれる感覚も分からなくなる。そんなの、色葉くんが助かっても辛い。たとえその辛さが今だけしかないとしても。 「色葉くん……っ!もういちどだけ……っ!」  ひかさん、と可愛い笑顔をして呼んでよ……。  そう願うのは無駄だと分かっていても願わずにはいられない。  つくづく僕は貪欲だと思う。

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