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第3話
「揉むがよい」
裸の友人は仰々しく言って、ぼくの前にしゃがみこむ。そして、少し胸を逸らし、それを見せつけるようにしてくる。
ぼくは思考停止した。
ぼくの目の前には今、はだかの、肌色の、豊満な二つのふくらみが、むちっむちっ、と存在を主張している。それぞれの丘の頂上にはちょうどよいサイズの乳輪があり、色は黒ずんだ茶色で、ごく控えめなサイズの粒が真ん中にぴょこんと飛び出している。
魅惑的だった。
いや魅惑的か?
男だぞ?
おっぱいではなく胸筋だぞ?
「これは胸筋だ、おっぱいじゃない」
「揉むって言っただろ」
「間違えたんだ」
「揉めよ」
え、酔ってるの?
「俺も毎日鍛えている自慢の胸筋を誰かに触らせたいと思っていたところだ」
飲んでないですよね?
「ほら、遠慮するな……」
友人は右手と左手でぼくの左手と右手を取り、それはでかくて厚くてごつい手なので、ぼくの骨と皮ばかりの非力な手は有無を言う暇さえ与えられず、その二つの丘へと導かれた。
こいつ手がめちゃくちゃあつい、風呂上がりだからなんだろうけど――思ってる間に、指が、禁断の丘へ着陸する。
ふ わ っ
「……!」
驚愕した。
やわらかくて、あたたかくて、ふわふわでもちもちで、想像以上のおおきなおっぱいが、ぼくを迎えてくれたのである……!
おそるおそる、手のひらで包み込んでみる。手に有り余るほど、おおきなおっぱいだった。押し付けると、しっとりと吸い付くような肌に指が沈み込む。ぼくは動揺した。そして、このおおきなおっぱいに顔を埋めてみたらどんなにか素晴らしいだろうと想像した。
「ふんっ!」
その夢にまで見たおっぱいが、突如豹変し、指がばよんと弾き出される。
力加減ひとつで、それがたくましい胸筋である現実がぼくを打ちのめしにやってくる。まだだ、ぼくはまだおっぱいを存分に堪能できていない!
「どうだ、すごいだろおれの胸筋は」
「力を入れるな」
「ん?」
「ぼくはやわらかいおっぱいを揉みたいんだから」
「お? お、おう」
ふわっ、もちっ、もちっ、もちっ……
あらためて手のひらで包み込み、感触を味わいながらゆっくりと揉みはじめる。ぼくの手の中で、指のうごきひとつで、むちむちと官能的に形を変える、やわらかくておおきなおっぱい……
「……」
「……」
気付けば二人とも黙り込んでいた。
変な空気になりつつあるのを、ぼくも感じはじめていた。でも後に引けなくもなっていた。ここでおっぱいを触るのをやめてしまったら、「友達(男)のおっぱいを揉んで変な空気になった」という事実だけがしこりになって残ってしまう。今後、この部屋に遊びにくるたびに、「そういえばあのときおっぱいを揉んで変な空気になったんだよな……」と思い出さないといけない羽目になる。それは避けたかった。だからと言っておっぱいを揉み続けた終着点がどこにあるのかなど、完全に混乱状態の今のぼくに想像がつくわけもない。
はぁ、と吐息が手にかかった気がして、ふと顔を上げた。
じっ、とぼくの手元を見つめ続けている友人が、若干眉根を寄せ、若干頬を赤らめ、悩ましい表情をしているではないか。丸太のようなたくましい太ももも、もじもじとさせているし……これではまるで、ぼくにおっぱいを揉まれて、感じてしまっているかのような……
「……ふ、ぅ」
「……」
「……、っん」
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