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第4話
はぁ、と吐息が手にかかった気がして、ふと顔を上げた。
じっ、とぼくの手元を見つめ続けている友人が、若干眉根を寄せ、若干頬を赤らめ、悩ましい表情をしているではないか。丸太のようなたくましい太ももも、もじもじとさせているし……これではまるで、ぼくにおっぱいを揉まれて、感じてしまっているかのような……
「……ふ、ぅ」
「……」
「……、っん」
「紅蓮」
「ん?」
「……あっち向いて」
背を向けさせて座り直させる。
ぼくは、女の子のことを考えることにした。目を瞑って女の子のことを考えながらおっぱいを揉みしだけば、この体験がよりいっそう素晴らしいものになると確信した次第だ。ぼくは、かわいくてちいさくてふわふわの女の子のおっぱいを揉んで癒される演習をしているのであって、決して「ムキムキの友人の胸筋を揉んで友人が感じている姿に興奮する」などという変態的な体験をしているのではないのである。
してみてから気付いたが、友人の後ろからおっぱいを揉もうと手を回すと、抱きしめているような格好になる。彼の胸板が厚すぎるので手を回そうと思うと寄らねばならず、正面からいくよりかなり密着度が高まってしまった。これはこれで変な気持ちを高揚させてしまうが、顔さえ見なければ、妄想はうまくいくはずだ。ぼくは目を閉じ、ふたたびおっぱいを揉みはじめた。
むに、むに、むに、むに……
女の子、女の子、女の子……
「……ぅ、ん」
男の吐息。
吐息を漏らすな、吐息を!
だめだこれは、完全に、ぼくは完全にごついむきむきの男の友人のおっぱいを揉んでいるに他ならなかった。吐息もそうだし、匂いもそうだ。ぼくは気付けばほとんど後ろから抱きつくような格好で友人のおっぱいを揉みしだいていたし、体が寄ることで顔を寄せてしまううなじから彼の使っているいつものシャンプーのシトラス系の爽やかな匂いがする。どう妄想しようとしても、匂いを嗅ぎ取り、吐息を聞きつけ、背中めちゃくちゃ広いな……と思うにつけ、かわいいちいさいふわふわの女の子の幻想を筋肉バスターで破壊する友人がぼくの目の前に現れて離れない。
しかも、探り当てたおっぱいのてっぺんの突起を、人差し指と中指の間に挟んできつめにこねあわせてみると、
「ッ、……く、ぁ!」
と言って背中をびくつかせる友人の反応に、ぼくはなぜか興奮しているのである。
「と、冬弥、そこは」
こね、こね、くり、くり……
「ま、待って、ンッ待て冬弥」
はし、と手を掴まれた。相変わらず手が熱くってびっくりする。
「お前なあ……」
向き直った友人の、紅潮した頬、潤んだ瞳が、完全に欲情しているのにもびっくりした。
ちょっと調子に乗りすぎた。その顔は命乞いをする仔ウサギというよりはもうテリトリーを侵されて怒っている腹を空かせたヒグマのそれだった。端的に言うと、エロかった。ぼくはきっとこの家に来るたびにこのエロい顔を思い出すだろう。染み付いた記憶はもう塗り替えようもない。
「……ご、ごめ……」
「次は俺の番だ……」
「え、え?」
無理に揉ませてきただけで順番制とかではありませんでしたよね?
と思っている間に、ぼくは片手でその場に押し倒されていた。
着ているトレーナーの下から、友人の右手が、するりと侵入して、すすす……と肌を撫でる。
「――ひっ、」
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