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第5話
着ているトレーナーの下から、友人の右手が、するりと侵入して、すすす……と肌を撫でる。
「――ひっ、」
こそばゆさがぞわぞわっ、と上半身をかけめぐり、思わず体を跳ねさせていた。それはもしかしたら、押し倒した側からすると、一撫でしただけで感じてしまったように見えたかもしれない。
右手に続いてやってきた左手が、ぼくの服を一気にたくし上げる。へそ、浮いているあばら、それから胸のあたりまで、一気に外気にさらされていく。
「ぐれっ、紅蓮、ぼくは」
――お前みたいに鍛えてないから胸筋はないしおっぱいなんか全然ないんだぞ!
主張が喉を通り抜けかけた途端、体の芯から声が、その主張を弾き飛ばして喉から勝手に飛び出した。
「……あっ!?」
噛み付くように胸に顔を寄せた友人が、ぼくの乳首へと吸い付き、あろうことか、こりっ、と甘噛みさえしだしたのだ。
「まっ、待って! ばかっ、お前っ」
見事な形成逆転。ぼくは慌てて友人の頭を胸から引き剥がそうとしたけれど抵抗むなしく、ぼくのちいさな右乳首は友人の唇に挟まれ舐られ、ぼくのちいさな左乳首は友人の右人差し指と親指が摘み上げてくりくりと弄り回している。痛ぇ、と思ったのはほんの一瞬で、次には妙な感覚に襲われてぼくは更に混乱した。友人の舌は、指は、燃えるように熱く、その熱いものに刺激を与えられるぼくの乳首はだんだんと火照りを移されて、その熱が頭まで伝播して、熱を帯びた思考が次第にどろどろに蕩ていって……
「ひ、……やめ、んぁ……」
意識していなければ、声を抑えられなくなってくる。
きゅうう、と吸い上げられ、先端を舌先でざりざりと擦られると、些細な痛みと一緒にじんじんとした痺れに理性を溶かされる。痺れは毒物のように体じゅうをぞわぞわとまわって、快感を追いかける以外のあらゆる感覚を鈍化させていく。
……快感。
ぼく、乳首を吸われて感じているのか。
熱が股間にまで移り、持ち上がりかけていることに、ようよう気付いてドキッとした。これはまずい。本当にまずい。このまま進んでしまえば、この家どころかこの友人と会うたびに、今日のことがフラッシュバックしてしまうようになる。
――このまま進んでしまえば?
このまま。このまま進めば、そう、このあとは……
「……か、帰る、もう帰る、ッから、紅蓮……」
どうにか快感を逃がそうと足をじたばたさせた。頭を押しのけようと、もう一度手を添えてみる。力が入らず、洗って乾かしたばかりのふわっとした髪の毛を梳くだけのようになってしまう。
夢中でぼくの右胸に吸い付いていた友人が、吸い付いたまま、目だけこちらに向けた。
今にも獲物を喰らおうとするケモノの目が、にやり、と狡猾に歪んだ、ように見えた。
――ぞく、ぞく。その視線に射抜かれて、ぼくの体が震えたのは、果たしてどういう意味だろう。
「ここ……」
友人の口がおもむろに乳首から離れ、ぼそ、と呟く吐息が触れる。
そして膝が、ぼくの足と足の間の付け根へ、ぐり、と押し付けられる。
「っ!」
「ここも、触ってほしいんじゃないのか……?」
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