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第7話

 みーんみんみんみー。  降るような蝉時雨の中、篤郎は母から渡された大玉のスイカを手に、隣の家へと向かった。私道を塞いでいた花園画廊のバンがなくなっているのに気がつき、ほっとする。  源の家は古い日本家屋で、その敷地内には四季折々の樹木や草花が植えられている。いまの季節は百日紅が満開だ。濃いピンク色の花が、風に花びらを散らす。  チャイムは鳴らさない。源は集中しているときに呼び鈴を鳴らされるのを嫌って、線自体を切ってしまっているからだ。だから、隣の家を訪ねるには、ドアを叩いて直接呼びかけるか、勝手に上がり込むよりほかない。  篤郎が子どものころは、よく庭の生け垣の下から潜りこんだものだった。母から何度叱られても、篤郎は止めることはなかった。源が篤郎の行為を、嫌がっていないことがわかっていたからだ。 「源ー! スイカを持ってきたぞー」  篤郎は玄関から声をかけると、源の返事を待たず直接庭のほうへと回り込んだ。  源は、小さい子が好んで食べるような着色料の多いアイスキャンディを咥えながら、庭木に水を撒いていた。無精で肩の長さにまで伸びた髪を後ろでひとつに結わき、180センチを優に超える長身を持て余すように、その動きはゆるやかだ。襟元が伸びたTシャツと短パンに、なぜか足元はショッキングピンクのビーチサンダル。篤郎が見ていることにも気づかず、呑気にホースで虹を作って遊んでいる。だらしのない格好をしているはずなのに、バランスのとれた身体つきはそんなマイナス面も魅力に変えてしまうのか、逆に色気が増しているように感じられるのは、篤郎の目が濁っているからだろうか。男らしさの中に甘さが滲むマスクはセックスアピールも充分で、篤郎は舌打ちしたくなった。  くそっ。無駄に色気を振りまきやがって。いっそのことぶくぶくと醜く太って、誰にも相手にされなくなればいいのに。  そのとき、源が篤郎に気がついた。 「よ。どうした」  口に物を咥えているので、その音は不明瞭になる。 「食べ終わってから話せよ」 「んあ?」  源はアイスキャンディを口から取り出すと、それを篤郎に差し出し、食べるか? と訊いた。その瞳がやわらかく笑みのかたちを作るのを目にして、篤郎の脈はとたんに速くなる。 「い、いらねえよ!」 「ほんとうに?」  こちらを見てにやにやしている源の脛を、篤郎は蹴ってやった。声を上げて笑う源からさりげなく距離を取り、鼓動が落ち着くのを待つ。

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