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第8話
源は蛇口を閉めると、ホースを片づけた。強い日差しに、源が着ている白いTシャツがハレーションを起こしている。
源はゲイで、性的マイノリティを隠していない。最近はどうだか知らないが、以前はセックスフレンドがいたようだし、花園画廊の源の担当者、日下 とそういう関係だったことも篤郎は知っている。
源に抱きしめられたなら、どんな気持ちがするのだろうか。あの手に触れられたなら・・・・・・。
想像したら胸の奥がぎゅうっと切なくなった。
「・・・・・・あいつ何しにきたの?」
「あいつって?」
篤郎が訊いていることなど百も承知だろうに、アイスキャンディを食べ終えた源は憎たらしくも舌を出し、「なあ、色変わってね?」と訊いてくる。
「あいつって言ったら、あいつだろ! 源の家に訪ねてくる物好き、あの男くらいしかいねえじゃねえか! あんなデカい車、私道を塞いで邪魔なんだよ」
「それは悪かったな」
源は笑むと、篤郎の頭をぽんと撫でた。自分の言葉がただの八つ当たりであることを自覚する篤郎は、源に素直に謝られて決まりが悪くなった。じわりと頬が熱くなり、顔を背ける。
「別にっ。源に謝られることじゃねえし」
ほらこれ、とスイカを突き出すと、源が笑った。
「スイカかあ」
「スイカだよ」
「あつん家のスイカはうまいからなあ」
「・・・・・・スイカにうまいもうまくないも違いがあんのかよ」
「そりゃあるだろ」
源がうれしそうに笑うから、篤郎はさっきまで腹を立てていたことなどどうでもよくなってしまう。
「ガキみてえ・・・・・・」
篤郎は鼻の下に拳を押し当て、笑みを殺した。
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