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第9話

 台所で切ったスイカを、源とふたり縁側に並んで食べる。スイカは甘みを充分に含んでいた。冷えていたら、きっともっとおいしかっただろう。乾いた身体に、スイカの糖分がじわりと染み渡る。 「あちーなー」  源はスイカを食べながら、もう片方の手で襟元を扇ぎ、服の中に風を送っている。源の襟元からつ、と汗が服の中に伝い落ちた。篤郎はスイカを食べながら、ちらっと横目で見た。 「あつんとこのスイカは甘いなー。昔からちっとも変わらない。あつんちの隣に越してきてほんとよかったなー」  呑気な顔で笑う男に、いいのはそれだけかよ、と篤郎は内心で突っ込んだ。  おこぼれを狙って、足元に蟻が集まってくる。源は食べていたスイカを指で千切ると、カケラを地面に投げてやった。 「・・・・・・そんなことしたら蟻だらけになるぞ」 「ああ? 大丈夫だろ、これぐらい」  スイカを食べ終えた源は満足そうな息を漏らすと、後ろに手をつき、気持ちよさそうに目を細めている。  みーんみんみんみー。  青空に入道雲が浮かんでいる。汗で濡れたシャツに、心地のよい風が通り抜ける。穏やかな空気がふたりの間に流れていた。  ーーいまなら言えるかもしれない。  にわかに緊張した篤郎の横で、源はこの暑さの中、猫のように微睡んでいる。 「・・・・・・は、源は恋人つくらねえの?」  まずい、噛んでしまった。さりげなく言おうとしたのに、力んだためかちっとも自然な響きに聞こえず、篤郎は舌打ちしたくなった。篤郎の内心の焦りなど気づかず、源は「恋人はいらないなあ」などとのんびりとした口調で答える。 「え、なんで!?」 「なんでって何が?」 「だからなんで源は恋人はいらないの?」  源が億劫そうな仕種で篤郎に顔を向けた。これ以上この話は続けたくないというかのように、曖昧な笑みを浮かべる。 「なに急に。きょうのあつはおかしいよ」

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