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第13話
再び篤郎の肩に腕を回した長沢が耳元で囁く。夏海が声に出さず、手でごめん! と合図するのに、篤郎は顔をしかめてしまった。長沢たちに理由を言えなかった夏海の事情はわかるし、怒ってはいないのだが、まんまと彼らの計略に乗ってしまった自分が腹立たしい。見れば、相澤たちは女の子たちの前で格好つけながらも、うれしそうだった。「それともほかに好きな子でもいるのかよ?」という長沢の言葉に、篤郎は観念した。ここまできたら仕方ない。いま自分が帰ると言い出したら、その場の雰囲気を壊してしまうだろう(もっともそれも自業自得という気もしないではなかったが、かわいい女の子たちと仲良くしたい、あわよくば彼女がほしいという相澤たちの気持ちもわかるから、それ以上は怒れなかった)。内心でため息を吐きたくなる気持ちを、篤郎は堪えた。
「……わかったよ」
しかし面白くない気持ちは拭えない。腹立ち紛れに長沢の足を蹴ろうとした篤郎は、ひょいと避けられ、むっとした。長沢はにやっと笑って篤郎の背中を叩くと、女の子たちのほうへと戻っていった。
「あっちゃん、ごめんね~!」
夏海が皆のいるところから抜け出してくる。
「いいよ。どうせ長沢たちに口止めされたんだろ」
篤郎が怒っていないことを告げると、夏海はほっとした表情を浮かべた。
「うん。ほんとにごめんね」
中華街で小籠包を食べ、タピオカミルクティを飲みながら、店を冷やかす。女の子たちは皆かわいくて、性格もよさそうな子たちばかりだった。友人たちが浮かれる気持ちもわかる。
女の子たちが楽しそうに中華菓子などの土産品を見ている横で、篤郎は月餅を手に取った。源は顔に似合わず甘党で、前に篤郎の父が買ってきた社員旅行の土産の饅頭を喜んで食べていたことを思い出したのだ。
「それ、買うの?」
振り向くと、向坂《こうさか》と名乗ったボブカットの女の子が立っていた。きょう会ったときから、彼女が自分のことを見ているのには気がついていた。自惚れではなく、篤郎は自分がそこそこ異性から好感を持たれるタイプであることを自覚している。
「あ、うん。どうしようかなと思って」
さりげなく距離を取ろうとした篤郎に、向坂は気づかず、
「あ、これもおいしそう。木の実入りだって。私も買おうかな」
などと言ってくる。
「でも、男の子がこういうものを好きなんて珍しいね。甘いもの好きなの?」
「まあ……」
篤郎は近くにあった月餅を適当に二つ三つ掴むと、「ちょっとこれ買ってくる」とレジへ向かった。
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