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第14話

 中華街から港の見える丘公園へいき、横浜ランドマークタワーへ足を延ばす。そのころには何組かのカップルができかけているようだった。完全なデートコースだなと内心で苦笑しながら、篤郎は自分が源と一緒にいるところを想像して、それはないなと打ち消した。考えてみたら源と一緒にどこかへ出かけたことなど、これまで一度もなかったことに気がつく。  篤郎の初恋の相手は源で、これまで一度も誰もとつき合ったことはない。篤郎だって、いつまでもこのままでいいと思っているわけではない。いまだって隙あらば源にアプローチをしているが、手のひらの上で転がされるように、いいようにあしらわれてしまう。この先一生不毛な片思いを続けられるかと問われれば、先のことなどわからないが、少なくともいまはまだ源への想いを断ち切れそうになかった。  源も、恋人と一緒だったらこんな場所へきたりするのだろうか。  頭に浮かんだ言葉を、篤郎はすぐにそれはないなと否定した。  源は基本横着で、自分の興味があることにしか動かず、誰かに合わせることがない。絵に関することなら別だが、休日の人で賑わう街に、わざわざ足を運ぶとは思えなかった。  源のことだから、デートなんて面倒なことはせずに、即物的なことになるのだろうか。……最低だな。  想像したら、無意識に眉間にしわが寄った。  俺のことを好きになって。俺以外の誰も見ないで。触れないで。そう言えたなら、どんなにいいだろう。  急に重たい石を飲み込んだみたいに、胸の中が苦しくなった。考え事をしていたら、皆から遅れてしまった。 「あ、あのっ、宇野くん」  すぐ側に向坂が立っているのに気がついて、篤郎は内心しまったと思った。もちろん顔に出すような真似はしない。 「何、どうしたの?」  何も気づかない振りをしてにっこりと笑い、皆のいる場所まで促そうとすると、向坂は真っ赤な顔で篤郎のシャツの裾を掴んだ。 「さっき長沢くんたちに聞いたんだけど、宇野くんサーフィンするってほんと?」 「……ああ」 「あ、あの、もし宇野くんが迷惑じゃなかったら、今度見にいってもいい?」  篤郎はとっさに答えられなかった。もちろんサーフィンが単なる口実にすぎないことはわかっている。いかにも勇気を出して話しかけていますという少女の背後からは、女の子たちはエールを送るように、長沢たちはうまくやったなというかのようににやにやと、そして篤郎の気持ちを知る夏海だけが同情を含んだ眼差しで見ていた。 「……俺、好きなやつがいるから」

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