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第15話
篤郎の言葉を耳にした瞬間、目の前の少女の顔がさっと強ばった。向坂は、自惚れだと篤郎をなじってもよかった。おそらく勘違いではないと思うが、篤郎は少女から付き合ってほしいなどの直接的な言葉を言われたわけではなく、ただ好意を持たれていると感じただけだ。けれど向坂はずるくも計算高くもなく、素直だった。
「……それって、さっき宇野くんがお土産を買ってた相手?」
「うん」
少しの躊躇もなく篤郎が答えると、少女はそっかあ、と息を吐いた。
「だったら仕方ないね。でも、皆が気にすると悪いから、きょうはこのまま一緒に遊んでもらってもいい?」
「もちろん」
少女は少しだけ寂しそうな顔をすると、次の瞬間気持ちを切り替えたように明るい笑顔になった。
「お土産、喜んでもらえるといいね」
「うん。ありがとう」
顔を見合わせ、自然な笑みが零れる。そのときだった。篤郎は通りの向こうに、源らしきひとの姿を見つけた。視線が絡み合う。源の手には、彼がよく利用する画材店の袋が握られていた。
「は……」
源、と呼びかけようとしたとき、彼は篤郎から視線をそらすと、その姿は人混みに紛れて見えなくなってしまった。
源……? 避けられた……?
ひょっとしたら気づかなかったのだろうかという疑問を、篤郎はすぐに否定した。源ははっきりと篤郎を見ていた。声をかけることなく去ってしまったのは、篤郎が友人と一緒にいるところを邪魔してはいけないと思ったからだろうか。出会ったころに比べたらこれでもだいぶマシになったが、源はもともと社交的な性格ではない。そう思うのに、わけのわからない不安が篤郎の胸に広がる。
「宇野くん? どうかした?」
気がつけば、向坂が心配そうに篤郎を見ている。
「ごめん、何でもない」
篤郎はひとまず不安を頭から追いやると、向坂と一緒に友人たちの元へと向かった。
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