17 / 65
第17話
顔を上げ、恐る恐る源の名前を呼んだ。自分を見つめる源の表情は静かで、そのくせこれまで見たことないくらいにひどく頼りなく感じられた。頬をそっと指先で撫でられる。
「源、……お前、大丈夫?」
少しの間があって、強ばっていた源の身体からふっと力が抜けたのがわかった。
……源?
源が篤郎の身体を離す。次に目が合ったとき、そこにいるのは普段の源で、篤郎は混乱した。
え、あ? 気のせい……?
「あつ、汗がびっしょりだよ。駅から走ってきたのか?」
「へっ! あ、ごめん、俺汗くさい!?」
慌てて飛び退り、くんくんと自分の臭いを嗅ぐ。それを見て、源がひっそりと笑った。
「変なあつ。何をそんなに慌てたのか」
篤郎はどこか釈然としない気持ちを抱えたまま、家の中へと引き返す源の後をついていく。居間へ入ると、さっきまで源が飲んでいたのか、缶ビールの空き缶がいくつも床に転がっていた。
源が酒なんて珍しい。決して飲めないわけではないようだが、酒のおいしさがわからないと前に言っていたことがあるからだ。現に、篤郎は源が酒を飲んでいるところをほとんど目にしたことがない。
「ちゃんと飯も食った? まさか酒だけってことはないよな?」
篤郎が足元に転がっていた空き缶を片付けながら訊ねると、源は縁側で大の字になって転がっていた。
「……源? 寝たのか?」
源は顔の上で腕を交差させたまま、篤郎の問いかけにも答えない。
「源?」
篤郎はどきどきした。手にした缶を床に置くと、息を殺し、そっと源に近づく。手を伸ばして源の髪に触れるか触れないかの刹那、瞼が開き、その目が合った。篤郎はどきっとした。にゅっと伸びてきた源の手に腕を掴まれ、腕の中に引き込まれるように抱きしめられる。
「うあ……っ! は、源……っ!? え、ちょっと何して……っ!?」
ともだちにシェアしよう!