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第19話

 早朝、いつものように波乗りにきた篤郎は、普段よりも早く海から上がることにした。 「夏海ー、先に帰るなー」 「えっ、あっちゃん!?」  ウェットスーツを腰まで引き下げ、片づけを済まして一足先に帰ろうとした篤郎を、夏海が砂に足を取られながらよたよた近づく。 「どうしたの、きょうずいぶん早くない?」 「ああ、この後ちょっと用があって」  実はきょうは源と企画展にいく約束をしていた。帰りに何かうまいものでも食べようかと言われ、篤郎は楽しみにしていた。  先日源の姿を横浜で見かけた後、篤郎は彼のようすがいつもと違うように感じられた。自分の膝の上で珍しく酔っぱらって寝てしまった源を放っておけず、そのまま傍についていたら、いつの間にか篤郎も一緒に寝てしまった。気がついたときには朝で、篤郎は腰にかけられたブランケットを剥いだ格好で大の字になって寝ていた。隣に源の姿はなかった。  ーーいい加減、あつの手を離してやらなきゃな。   あの寂しげな声はなんだったのだろう。頼りない響きが源らしくなくて、とても現実のこととは思えなかった。  いったん家に戻り、シャワーを浴びて再び隣の家を訪ねたとき、姿を見せた源はいつもの彼で、篤郎はあれはやっぱり夢だったのかと思った。そのとき、企画展のチケットがあるから一緒にいかないかと誘われたのだ。篤郎は一も二もなく了承した。源が何かに誘ってくれることなど滅多にない。滅多にないどころか、初めてじゃないだろうか。

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