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第21話

「あれ、なんかきょうのあつ、いつもと感じが違うな。ひょっとして、俺と出かけるからオシャレをしてきたのか?」  顔を覗き込むように正解を当てられて、篤郎はかあっと赤くなった。もちろん素直にそうですなんて言えるはずはない。 「はあ? 源の目が腐ってんじゃねえのか? どこがオシャレだ。俺はいつでもカッコいいんだよ!」  側にいるとドキドキしているのが伝わってしまいそうで、篤郎は源の筋肉質な腹に拳を当てると、暑いから邪魔、と乱暴に押しのけた。 「ふうん、いつもと同じねえ」  まるで篤郎の考えなどすべてお見通しとでもいうかのように、源が人の悪い笑みを浮かべる。 「うっせー」  むっとして源の尻を軽く蹴ってやると、源は今度こそ声を上げて笑った。  会場は表参道だった。なんでも、源の大学時代の恩師の企画展ということだ。恩師などと源に殊勝な気持ちがあったこと自体がまず驚きで、彼の口からそんな話を聞いたことは一度もない。源の人付き合いの悪さを知る篤郎にとっては実に興味深かいことだった。  平日の昼間ということもあって、電車は空いていた。篤郎から拳をひとつかふたつ開けた距離に源がゆったりとした姿勢で足を組んでいる。両手はだらんと横に下したまま、さっきから一言もしゃべらないので、何を考えているのかはわからない。 単なる顔の美醜でいったら、源はとりたてて美形というわけではない。それでもひとめを引くのは、彼が持っているオーラだとか雰囲気のせいだろう。それはマグマをぎゅっと地中に押し込めたのに似ている。一見表面は静かで何も見えないのに、その下では強烈なエネルギーがぐつぐつと燃えている。それに加えて、源自身に独特の色気があるからだろうか。ああほらまた、車内にいるOLや女子高生がちらちらとこちらを気にしているのがわかって、篤郎は内心おもしろくない気持ちになった。こいつはただのヤリチン男だぞと、いまにも話しかけたそうな女たちに教えたくなる。

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