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第22話

「ほんと見る目がない」  ぼそっと漏らした篤郎の呟きを耳にした源が、何か言った? と篤郎のほうに顔を向けた。 「別に。源みたいなろくでなしがモテるなんて、世の中何かが間違ってる」  もちろんそれは篤郎も同じだ。いや、見た目だけでない源の本質を知る分、自分はもっと救いがないのか? 「ーーああ」  視線を追って女たちに気づいた源が、篤郎の言葉を否定するでもなく彼女たちにほほ笑んだ。 「やめろって。そんな気もねーくせに。期待をもたせんな」  篤郎は慌てて源の腕を引き寄せた。 「期待って何が? ああ、彼女たちに笑いかけたことか? でも、彼女たちも別に俺じゃなくても誰でもいいんじゃないか? もっとも、俺はゲイだから彼女らに乗られても勃たないけどな。いや、目をつむって相手が見えなかったらどうかな……」 「やめろ」  辛辣な言葉に、篤郎はひやりとした。源なら本気でやりそうで怖かった。そうして彼女たちを傷つけた後、何の胸も痛まない源の姿が想像できて、篤郎は重たい石を飲み込んだような気持ちになる。 「……頼むから、冗談でもそんなこと言うな」  源は驚いたように軽く目を瞠ると、困ったような笑みを浮かべた。まるで篤郎のほうが聞き分けのないことでも言ったかのように。 「……あつがどう思おうと、俺は元からこんなやつだよ」  それでも篤郎が本気で言っているのがわかったのか、源は隣で大人しくなった。  篤郎の胸に苦い思いが広がる。  ときおりいまみたいに、源の周りに誰も入ることのできない透明な膜を感じることがある。その瞳の奥は冷たい氷があるようにちっとも笑っておらず、他人を傷つけても何とも思わない、残酷な光があるだけだ。  源の出自が複雑なことは知っている。そのせいで、源が他人を信じられなくなったことも。  篤郎は自分が源にとって特別だとは思わない。出会ったときに比べたら多少の信頼関係は築けていると思うが、篤郎が越えてはいけない一線を越えるやいなや、源は篤郎を傷つけることになんの躊躇もみせないだろう。  篤郎は源に知ってほしかった。人は裏切るだけの関係じゃないのだと。お互いを思いやり、やさしくすることもできるのだと。けれど、どうしたらそれを源に伝えられるのかわからなかった。 「どうしたらいいのかなあ……」  ぽつりと呟いた言葉に、源が顔を向ける。さっきのやり取りなど何もなかったかのように、普段と変わらない源のようすに篤郎はがっかりした。  まあ、焦っても仕方ないか……。 「源に恩師がいたなんて初めて聞いたよな? どんな人なんだ? お前にそんな殊勝な気持ちがあったの?」  篤郎の言葉に、源は珍しく口ごもった。 「どんな人って、なんて言えばいいのかなあ。あつも会ったらきっとわかるよ」 「ふーん?」  それを潮に、隣で寝たふりを決め込む源に、篤郎は彼の言うとおり実際に会ったときにわかるかと、それ以上追求しなかった。

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