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第23話

「きみが噂のお隣さんだね! いやー、ようやくお会いすることができましたね」  会うなり、篤郎の手をぎゅっと握りしめ、肩をバンバンと叩いてくる好好爺の勢いに、篤郎はすっかり飲まれていた。  会場は表参道の駅から歩いて十分ほどの住宅街にあった。古民家を改築した佇まいは、落ち着く空間ながらもどこかモダンだ。手前が小さな喫茶スペースになっているらしく、コーヒー豆の芳ばしい匂いがした。 「は、初めまして、宇野です。源がいつもお世話になっています」  何が噂なのかわからなかったし、源と違ってもともとこんな場自体慣れていない。それでもなんとか挨拶をすると、源の恩師だという好好爺はじっと篤郎を見つめた。その瞳が何かを探るように緊張して汗をかく篤郎を見ると、次の瞬間ふっとゆるんだ。 「初めまして、門倉《かどくら》です。この難しい人は、側にいるだけで大変でしょう。学生時代から才能があるのはわかっていましたが、誰も寄せ付けない頑ななところがずっと気になっていましてね。でも卒業してどのくらい経ったころでしょうか、あるときから彼の絵が変わった気がして、どうしたのかと思っていたら、隣の家のちびがまとわりついてうざいんだなんてらしくないことを言うからびっくりしました」 「は?」  俺?  何を言われているのかわからず、篤郎は戸惑った。確かに門倉の話が本当なら、隣の家のちびとは自分のことに違いないが、自分の存在が源の作品に影響を与えたなんてことはあり得ない。

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