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第25話
源の父親は代々続く政治家で、源は彼が愛人に生ませた非嫡出子だ。源が中学生のとき、心を病んだ母親は父親を道連れに無理心中を謀って亡くなってしまったというのは有名な話だ。その事件は週刊誌に取り上げられ、世間で大騒ぎになったからだ。まだ保護を受けるべき子どもであった源は、幸いにも命を取りとめた父親のもとへ引き取られることになった。父親が愛人に産ませた子という立場で、突然母親を亡くしたばかりか、本妻と半分しか血の繋がらない兄妹と暮らすことになった源の気持ちは想像に難くない。
気の毒に、と言いながら、批評家の男は明らかに源を嘲笑っていた。
ーーこいつだけは絶対に許さない。
篤郎はテレビの向こうで醜い笑みを浮かべる批評家の男を心から憎んだ。そのときの番組がきっかけかはわからないが、その後批評家が仕事にあぶれるようになったと聞いたとき、篤郎はザマアミロと思った。
源の絵は一見わかりづらい。そしてその批評家が言うように、冷たく見えることもある。けれどじっと目を向けていると、決して他人を拒絶なんかしていないことがわかる。不思議だ。篤郎がよく知る源は自分のことも含めて誰にも興味がないように思えるのに。
「俺、絵のことは好きなだけでよくわからないけど、源の絵を見てるといつも胸の奥が苦しくなる。もっとずっと見ていたくなる。源の絵のことを悪く言う人もいるけど……」
うまく言えなくて、篤郎はもどかしい気持ちになる。そのとき、わかりますよ、という声が聞こえた。
「日高くんの絵には力がある。見る人の心に深く揺さぶりかけるものがある。中には受け入れられない人もいるでしょう。ときに強すぎる力は、反感を生むものだから。知る前と知った後では明らかに何かが違ってしまう。決して知る前には戻れない」
「……源の絵を初めて見たとき、驚いたことがあります。なんていうのか、これまで自分が見ていると思った世界と、源が見ている世界は違うように思えて……」
「違う?」
門倉が首をかしげる。篤郎はなんて説明すればいいのだろうと迷った。もどかしげに唇を舐めて湿らせる。
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