34 / 65

第33話

 普段源が家から庭に出入りしているときに使っている縁側の窓ガラスに手をかけた。鍵はかかっておらず、窓は簡単に開いた。さすがに不法侵入ということはわかっていて、緊張で心臓がドキドキする。ひどく怒られたらどうしよう。  源は、一階の奥の二部屋をアトリエとして使用している。手前の部屋の棚にはガラス瓶に入った色とりどりの岩絵の具が並べられていて、晴れた日は差し込む光に反射してきらきらと輝いてとてもきれいだ。 「……源?」  アトリエの中は薄暗かった。やっぱりいないのだろうかと篤郎が思ったとき、その声が聞こえた。 「ーー……アッ! ああ!」  篤郎はぎくりとした。反射的にあたりを見回すが、その場に篤郎を咎める者はいない。 「ああ……っ!」  声はアトリエの奥から聞こえてくる。まるで何かを堪えるような辛そうな声に、篤郎の心臓は不安と緊張でばくばく鳴った。 「源……?」  奥の部屋でふたりの人間が重なり合うように蠢いていた。相手に覆いかぶさる源は上半身裸で、ゆるく穿いたデニムを腰の下まで下ろしている。一部だけ覗く臀部が、源の動きに合わせて生き物のように妖しく動いた。  獣のような荒い息づかいが恐ろしかった。源が誰かとケンカをしているなら止めてあげなきゃと思うのに、未知の感覚が篤郎をその場に踏み止ませる。ここはお前がいていい場所じゃないと警告する。 「源……?」  何してるの……?  篤郎は紫陽花を握りしめる手にぎゅっと力を込めた。心臓はあり得ないくらいにドキドキ鳴っている。足の裏が床にぴたりと貼りついたみたいに動かすことができなかった。源の手が、下にいる人の足を左右に大きく割った。 「ーー……っ!」  そのとき、鋭い悲鳴のような声とともに、源の下にいた人が身体をのけぞらせた。ほっそりとした首が鮮やかに目に焼き付く。まるで鈍器で殴られたようなショックに、篤郎は大きく目を瞠った。 「ふぅ、ああーー……んっ!」  その場にいてはいけないことも忘れて、一体自分が何を目にしているのかさえわからずに、篤郎は声を上げて泣いた。そのくせ、普段おしっこをするときにしか使わない部位が、張りつめたように痛むのも怖かった。  ぎょっとしたのは、奥の部屋にいたふたりだった。 「あつ!? お前なんで……っ!?」

ともだちにシェアしよう!