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第38話

 それからの長い夏休みを、篤郎は抜け殻のように過ごした。ただ息をするだけで苦しく、これまで何気なく過ごしてきた時間が、途方もなく長いものに思えた。源とは一度も会っていなかった。正直、いま源と日下が一緒にいるところ直視する勇気はなかった。  受験生なのに勉強もせず、ただ鬱々と日々を過ごしていたら、ついに母がキレた。浪人しても金は出さない、卒業したら家を出て自立しなさいと言われ、反論もせずにわかったと答えると、今度は逆に何かあったのかと心配されてしまった。  ーーあつー、知ってるか? 庭にくるノラな、発情期で夜中にニャーニャー鳴いてただろ? しばらく姿を見ないと思ったらな、子どもを三匹も生んでたよ。見たか? 猫の赤ん坊って、まるでエイリアンみたいなのな。  ーーあつー。お前、なんでこんなオッサンがいいの? 若者は若者らしく、もっといろいろあるだろうに。時間はあっという間だぞ。  寝食を忘れて没頭するくらい絵を描くことが好きで、人の心を揺さぶることのできる絵が描けるくせに、出来上がった作品には本人が一番無頓着だった。面倒くさがりで、篤郎よりも二回り近くも年上のエロいオッサンのくせに、笑ったときのその目がときおり堪らなくやさしくなることを、源は知っていただろうか。

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