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第39話
思い出したとたん、無性に源に会いたくなった。同時に会いたくない。
そうこうしているうちに夏も終わり、季節は秋へと移り変わっていた。
放課後、篤郎は担任の教師から進路について指導を受けると、人の少なくなった校舎を出た。日が暮れ始めた駐輪場で愛用のクロスバイクを取り出し、前後のライトを点ける。クロスバイクで切る風が少しずつ冷たいものになっている。
海沿いの道を走るときは、遮蔽物がない分風の影響を受けやすい。そのときすっと近づいてくる車があって、篤郎は先に行かせようとペダルを踏む足をゆるめた。プ、とクラクションが鳴らされて、リアサイドウィンドウが開けられた。中から日下の顔が覗いて、篤郎はゲッと思った。そのまま気づかないふりをしたかったが、横に寄ってと合図され、篤郎は仕方なしに少しいった先の車が一時停車できるスペースで自転車を降りた。
日下は自販機で缶コーヒーを二つ買うと、そのうちのひとつを篤郎に差し出した。
「コーヒー、大丈夫だったよね」
「……はあ」
いらないと撥ねつけるにはあまりに大人げない気がして、篤郎は缶コーヒーを受け取った。正直、日下はいま篤郎が会いたくない相手ナンバーワンだ。日下に非がないとわかっていても、気持ちは正直だ。短い返答にその気持ちが表れてしまった篤郎に、日下は苦笑した。
「すっかり嫌われたものだ」
「別にそういうわけじゃないけど……」
まさかその通りだとも言えず、篤郎はごにょごにょと口ごもった。
「先生とはもうずっと寝てないよ」
「えっ」
「きみが知りたいのはそういうことでしょう?」
ぎょっとした篤郎に、日下はポケットからタバコを取り出すと、吸ってもいいか、と目顔で訊ねた。
「え? ああ、どうぞ」
普段とはどこか違って見える男の雰囲気に飲まれながらも、篤郎は頷いた。
カチッと音がして、薄闇に小さなオレンジ色の火がともる。日下の口から、ふうっと白い煙が吐き出させた。篤郎は、日下がタバコを吸うのを初めて知った。伏せがちの眼差しに色香が漂い、男の年齢を忘れてしまいそうになる。
「……あんた、タバコ吸うんだな」
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