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第40話
非難でなく素直な感想を漏らすと、視線だけ上げた日下が、なに? と瞬きした。
「きみに泣かれてから、しばらく経ったころかな、僕とはもう寝るつもりはないと、先生にはっきりと言われました。もともと先生とはきみが思っているような関係ではなかったのですがね。僕にはほかに恋人がいたし」
「えっ? ……はい?」
篤郎は間抜けな声を発した。いったいいつの話をしているのだと愕然となる。
俺が泣いたときって、何年も昔の話じゃないか。それからずっと関係がなかったって? 嘘だろ?
ひとり混乱の渦に放り込まれた篤郎は、遅れて日下の言葉の意味に気がついた。
「恋人がいたって、だったらなんで……っ?」
思わず言葉を荒げた篤郎を、日下は静かな目で見返すと、やがてふっと微笑んだ。
「……寂しかったからかな」
それは、思わず見とれてしまうような、寂しくて、ぞっとするくらいに美しい笑みだった。
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