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第50話

 苦しく吐き捨てた篤郎の言葉に、源がうん、と同意する。その瞳は、だから篤郎のほうから早く愛想を尽かせと言っていた。自分からは何もしないくせに。  くそっ。  篤郎の中で、ぷつりと何かが切れた。篤郎は源の首に腕を回すと、そのまま引き寄せるように顔を近づけた。源がびっくりしたように目を丸くするのを視界の隅に捉えながら、その唇に触れる。  初めてするキスの味は、緊張してよくわからなかった。ただ心臓が壊れそうなほど鳴っていて、あ、源の唇だと意識したとたん、カチリと歯と歯がぶつかって、篤郎は顔をしかめた。くそっ。  いったん顔を離し、源の頬を両手で挟み込んだ。言葉もなく自分を凝視する源をまっすぐに見つめ返す。 「源は臆病で、最低だ。自分のことしか考えてない」 「うん」 「俺の気持ちなんてどうでもいいんだ」 「……その通りだよ」  残酷な言葉に、胸が苦しくなる。最低だ、源なんてどうでもいいと嫌いになれればよかったのに、篤郎の心は源を好きだと叫んでいる。  源の瞳は揺るがず、篤郎の言葉は少しも届いてはいない。その事実に、篤郎は目の前に立つ男の首根っこを掴まえて、わあわあとわめき散らしたかった。  どうすれば伝わるのだろう。源に届くのだろう。  篤郎は泣きたい気持ちで、必死に考える。 「俺は源が好きだ。これまでずっと源だけが好きだった」 「あつ……?」  源にとって、過去のトラウマが決して小さくないことはわかっている。他人がどうこうできるものならいいが、その傷は源自身にしか癒せないものだ。源が気づいて、認めないことには何も始まらない。だからこそ、篤郎は源に勇気を出してほしかった。  信じてーー。

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