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第56話

 思い出すのは、源がかつて関係を持っていた男たちだった。こんなこと比べるものじゃないことはわかっている。最初から勝負にすらなっていないことも。言うつもりなんてなかったのに、長年培われたコンプレックスは、そう簡単に消えるものではない。  いじけた篤郎の表情から微かに傷ついた色を感じたのか、源は軽く目を瞠ると、ふいに真顔になってばかだな、と言った。 「あつはいまのままで充分に魅力的だよ」  再び唇にキスをされ、好きだと囁かれる。 「誰の代わりでもない、篤郎が何よりも好きだ」  そのまま包み込むようにやさしく抱きしめられた。源のぬくもりに包まれているうちに、篤郎の奥に引っかかっていた最後の棘がぽとりと落ちた。強ばっていた身体から力が抜ける。 「いれていいか?」  情欲の滲んだ声で言われ、篤郎が頷くと、源は篤郎が買ってきた新品のローションの封を切った。 「……あつにこんなものを用意させるなんて、俺は相当のクソヤローだな。前のを使うと思われるくらい、デリカシーがないと思われたってことだよな?」  果たして源にデリカシーなんてものがあったのだろうか。  篤郎の表情から考えていることがわかったのか、源はやや気まずそうな顔をすると、枕元から取り出したものをぽいっと篤郎の前に放った。それは、篤郎が用意したのとは別の未開封のローションだった。  篤郎は目を瞠った。源がわざわざ用意してくれたのだと知って、じわりと胸が熱くなる。 「あつにはさんざん悪さを見られているから、そう思われても自業自得ってやつなんだろうが」  源はややいじけた顔でブツブツと呟くと、 「あつに見放されないよう気張りますんで、これからに乞うご期待」  ぺこりと頭を下げた。  たっぷりのローションで後孔を濡らされる。お漏らしでもしてしまったような不快感に、篤郎は顔をしかめた。 「なんかつけすぎてないか?」 「そんなことないよ。ケガをしたら大変だからね。たっぷり濡らさなきゃ」  量を控えるどころかますます液体を足され、篤郎の眉間に皺が寄った。腹這いの状態で身体の下に枕を挟まれ、尻だけ突き出す格好をとらされる。仕方がないとわかっていても、恥ずかしいことには違いはない。篤郎は後孔に含まされる源の指から必死で意識をそらすと、必要以上に力まないようにした。  恥ずかしくてまじ死にそう……!

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