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第61話

 合格発表の日は、朝から小雪がちらつきそうな曇天が広がっていた。そわそわする気持ちを隠せない両親とは違って、篤郎は落ち着いていた。やるだけのことはやり切ったという、どこか開き直った気持ちがあったからだ。  源と初めてセックスをした後、篤郎の生活は一変した。源との関係が大きく変化したことによって、篤郎はようやくこれまで逃げていた自分の将来について向き合う覚悟ができたのだ。  自分との関係を、源がどう思っているかはわからない。源が他人を信じることができないのは、彼の過去が影響している。それは篤郎にはどうにもできないことだ。けれど、少なくとも篤郎はこのままじゃ駄目だと思った。いまの自分では、何かあったときに源を守ることができない。大人にならなければ。源を支えられるくらい、自分が大人にならなければ。  源の影響からか、篤郎は幼いころから絵に興味はあったが、同時に源のように自分に絵を描く才能がないことはわかっていた。美術を初めて仕事として考えたとき、一番自分がしたいことのイメージに近いのは、皮肉なことにこれまで篤郎が誰よりも苦手としていた日下の姿だった。  とはいえ、これまで散々遊びほうけていた篤郎が改心して受験勉強に励んだからといって、現役で合格できるほど受験は甘くなかった。一年間必死の浪人生活を送ったのち、ついにその日は訪れたーー。  時間になって、篤郎は合否の結果を携帯で調べると、慌てて父に報告のメールを送る母に「ちょっと隣にいってくる」と言い残して、コートと携帯と財布だけ持って家を出た。これまでデッサンを見てもらうことはあっても、初めて身体を繋げて以来、源とは恋人らしいことはしていなかった。しばらくは受験に専念したいという篤郎に、源は反対もせずただがんばれ、と応援してくれた。  扉が開き、急いだようすで源が出てくる。 「あつ……」

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