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第62話

 珍しく緊張を滲ませた源に「受かった」と一言告げれば、その表情はうれしそうに綻んだ。 ふっと沈黙が落ちて、互いの目が合った。磁力が引き合うように口づけを交わし、セックスへとなだれ込んだのは当然の流れといえるだろう。  目が覚めたとき、薄暗い部屋の中は静かで、源がスケッチブックに鉛筆を走らせる音だけが響いていた。 「何してんの?」  布団から出ると、ひんやりとした空気が肌に触れた。篤郎は身震いした。 「寒」  布団をかぶったまま、まるでおんぶお化けのような格好で源に近づく。頬にキスをされ、一緒に布団にくるまるような形で背後から抱きしめられた。 「さっきおばさんがみえたよ。ちょっと出てくると言ったきり、あつがちっとも帰ってこないって」 「あ! やべ! すっかり忘れてた!」  篤郎が家を出たのは午前中で、いまはもう夕方だ。それでなくても母には受験のことで散々心配をかけている。さすがに慌てた篤郎は、源の「今夜はうちに泊めるって言ったらさすがに呆れてた。うちの放蕩息子をよろしくお願いしますってさ」と言う言葉にほっとした。 「どうしよう、よろしくお願いされちゃったよ」  さすがに気が咎めるのか、源は何とも気まずそうな微妙な表情を浮かべている。悪いと思いつつも、篤郎はにやにやしてしまった。そのとき、源が手にしていたスケッチブックに気がついた。そこに描かれていたものに、軽く目を瞠る。 「……これ、俺?」  篤郎が驚いたのも無理はない。門倉の企画展で観た紫陽花の絵を例外として(とはいえあれも正確には人物画とはいえないだろう)、源は普段人物を描かない。それなのに、そこに描かれていたのは、無駄をそぎ落としたシンプルなラインで何枚も描かれた男の裸で、描かれているのが自分の姿でなければ思わず見入ってしまうほどの魅力にあふれていた。 「……やっぱ源はすごいのな」

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