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第63話

 受験のために篤郎も何十枚も何百枚もデッサンの練習を重ねたからこそ、その違いが嫌ってほどわかる。プロとアマチュアを比べるほうがどうかしているが、いまさらながらに源の才能をまざまざと見せつけられる思いで、篤郎は無断でヌードを描かれたことを咎めるのも忘れてしまった。 「どうして源は人物を描かないんだ?」  もっと見たいのにという願望も込めて訊ねると、頭のてっぺんに落ちてきたキスとともに、あっさり「これまでは描きたいものがなかったから」という返答が返ってきた。 「まあ、これからはどうかわからないけどな」  にやっと思わせぶりに笑う源に、篤郎はかあっと赤くなった。 「あつ」  そむけた顎をとられ、キスをされる。 「好きだ」  まっすぐに自分を見つめる源の目は、もう揺らいではいなかった。篤郎は源の首に腕をまわすと、今度は自分からキスをした。我ながら呆れるほどに何度も抱き合い、また飽きずに抱き合った。それでもしつこいほど啼かせたがる源に、篤郎はたまらず膝蹴りを食わしていた。

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