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第2話

『また行くよ』と連絡があってから数日後。 清高の三日間の留守を見計らったかのように、義父はやって来た。 玄関の扉を開くと、いつもの彫りの深い中年の男が柔らかな笑みを浮かべて立っていた。 「やぁ、体調はどうだい?」 清司はいつものように穂の身体を気遣う言葉をかけてくる。 その言葉がただ単に挨拶なのか、それともこれから始まる行為について穂の意思を問うものなのかよくわからない。 だが穂は毎回訊ねられるたびに一瞬息をのんでしまう。 心臓が高鳴り、手のひらや首筋にじわりと汗が滲むのだ。 期待と、後ろめたさで。 「大丈夫…です」 「うん、いい事だ」 清司は目尻に皺を何本も作りながら微笑んだ。 こうして会話しているとはたから見れば普通の親子に見えるだろう。 当然だ。 清司は見た目も立ち振る舞いも誠実そのもの。 穂自身、自分が義父とそんな仲である事が未だに信じられない時がある。 だが、彼を中に招き入れ扉が閉まったら始まる。 あの、背徳的な行為が。 夫のいない家のあちこちで… 「お邪魔するよ」 清司の言葉に穂はハッとした。 「は、はい」 慌てて扉を大きく開き、清司を中に招き入れようとする。 だが再び息をのんだ。 扉の影からもう一人、男が現れたのだ。 穂はもちろん、清司よりも背の高いスラリとした若い男だった。 真っ白の半袖のシャツから出た腕は日に焼けて逞しく、丸太のように太い。 「お久しぶりです」 穂に向かって微笑む男の目尻に、見覚えのある皺が刻まれる。 「清正(きよまさ)さん?」 それは穂の夫の弟、清正だった。

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