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第5話

清司のゴツゴツとした手が穂の服へと伸びてくる。 清正は黙ってじっと見つめてくるばかりで、止めようともしない。 この親子は狂っている。 義父の常識から逸脱した思考を前に、穂は改めて身震いした。 散々流されておいて今更言えた立場ではないのはわかっている。 だが、このままいつものように流されてしまうのはもっとだめだと思った。 抵抗しなければ。 これ以上罪を重ねないように。 穂は思い切って義父の手を振り払った。 そして、今まで口にしないよう努めていた気持ちを初めてぶつけた。 「こんなのおかしいです!も、もうやめましょう、いくらやったって子どもなんかできるはずない!!」 言い終わったところでハッと我にかえる。 義父に逆らうという事、それはつまり、尾村家を敵にまわすという事になる。 お前は尾村家に相応しくないと言われるかもしれない。 清高との離婚を言い渡されるかも… 頭の中に最悪な状況が浮かび上がる。 振り払われた手をじっと見つめていた清司が穂を見下ろしてきた。 厳しい言葉を投げかけられると予想した穂は唇を噛むとその時を待つ。 だが、彼が投げかけてきたのは穂を罵倒する言葉ではなく憐れみを含んだ労いの言葉だった。 「かわいそうに…無理もないか。あれだけ残念な結果が続いたら気持ちが挫けてしまうのもわかるよ。だが心配しなくていい。僕ら尾村家の男はみな根気強いのが取り柄なんだ。なぁ?清正」 清正はこくりと頷くと、義父にそっくりの笑みを浮かべた。 その二人の親子のやり取りを前に、穂は青ざめ、呆然とするしかなかった。 どれだけ穂が抵抗しようとも、彼らの考えは一ミリもブレる事はない。 男の穂が子を宿すと信じているし、そうなるまで背徳的な行為を続けるつもりなのだ。 どこまでも狂っている思考に太刀打ちできる術などない。 それをまざまざと思い知らされて、絶望するしかなかった。 「さ、始めようか」 義父の手が再び服に伸びてくる。 「いや…っいやです!!だめ…っ」 穂はその手から逃れようと必死に抵抗した。 だが、体格のいい二人の男にテーブルを囲まれているため逃げる事はかなわない。 まるでまな板の上で暴れる魚を押さえつけるが如く、いとも容易くテーブルに縫いとめられてしまう。 「こらこら、そんなに暴れたらいけないな。これじゃあまるで僕らが無理矢理犯しているみたいじゃないか」 「そうだ」と言いかけた口を清司の節張った手が塞いでくる。 「どれ、少し口を塞いであげようか。清正」 清司の言葉を合図に、穂の視界が暗くなった。 体格のいい清正が穂の頭上に位置づいたせいだ。 金属の擦れる音がしたかと思えば、ジジ…とという音が耳元に響いてくる。 次の瞬間、太く禍々しい何かが頭上からぬっ、と現れた。

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