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第3話

仕事を探しながらも、都合が合えば食事を共にしたリ、買い物に付き合ったり… 二人の優しさに触れて一度は嫌気の差した人生に一つ、また一つと小さな明かりが灯っていったんだ。 両親は数年前に他界し姉弟で暮らしてきて、今では弟が父親代わりになると頑張っている。そんな事を俺が知る頃には、ある特別な感情が芽生えていた。否、出会った時のあの声からすでに芽生えていたのかもしれない。 一緒にいるだけで心地よくて、もっと長く傍にいたい 別れたばかりなのに今すぐ会いたい そんな感情を女性である姉、にではなく弟に持っていた。 しかし過去の恋愛対象は全て女性で、自慢じゃないがモテる部類に入っていた俺にとって自分から好きになるのは初めての経験だった。自分の感情がまだ信じられなくて、それでももっと信じられなかったのは弟も俺のことを好きかもしれないというふんわりとした確信だった。 『女性が多い職場だとやっぱモテるでしょ』 何気なく聞いた言葉に弟の肩が跳ねた。 『いえ… 全く』 『今までは?』 何を聞いてるんだ 自分でそう思いながらも弟の恋愛対象を確かめておきたかったのかもしれない。 優しく物腰柔らかで聞き上手、かといって全て受け身になるわけでもなく、家事もそつなくこなす独身男性を周りが放っておくはずがない。 『それ以外の事で手一杯だったもので 告白なんてされたこともありませんし』 視線を泳がせる姿は悲しみを浮かべているようにも困っているようにも見えた。 『僕なんかよりよっぽどモテるでしょう?』 『そう思う?』 『はい 初めて会った時…、すごく…かっこいい方だなと寝顔を…』 『俺の寝顔ずっと見てたの? あ、だから夕食も誘ってくれたの?』 『ち、違います!見たのは…、ちょっとだけです 夕食は心配だったからで、…ッ!』 手を振って必死に否定するその奥にある顔は赤く染まっていた。少し意地悪言っただけのつもりだったが、そんな素直な反応をされれば嬉しくなってしまう。 『冗談だよ 自慢じゃないけど確かにモテるよ。 でも今は好きな子いるから他が目に入らないんだ』 まっすぐ瞳を見つめる。しゅんと落ちた視線が俺と交わって徐々に耳まで赤く染まっていった。

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